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デザイン思考がもたらす変革とは?

   

はじめに

変化の激しいこの時代において、政府や組織のトップでさえも解決できないような難しい課題が増えています。アフターコロナの時代にデザイン思考は私たちの生活の中でどのような役割を果たすのでしょうか?

この記事では、私たちの生活に関わる政策決定、労働形態、文化的価値観の変化をデザインがどのように加速させているのかについて5つの異なる側面から探っていきます。共に変化の道を進むみなさんに世界のデザイントレンドをご紹介します!

  1. 共創(co-creation)はイノベーションのカギになる
  2. デザインは企業戦略における重要度をさらに高めていく
  3. 公共分野におけるデザインの需要が高まる
  4. ソーシャルグッドやサステナビリティの認知度が高まる
  5. テクノロジーは進化を続け、変化を加速させる

また、それぞれの側面に触れていくにあたって、より具体的に想像しやすいよう海外の事例も交えてご紹介します。

アフターコロナの世界でデザインが果たす役割とは?

1. 共創(co-creation)はイノベーションのカギになる

コワーキングスペースの誕生、大小のコミュニティ、オープンソース、ワークショップ、シンクタンクやハッカソンなど、イノベーションを生み出すためには、分野を超えた共創が必要だということが分かってきました。急速に変化が起こる環境で、複雑なシステム上の問題を解決する方法、それは異なる視点、多様性を持つチームをまとめ、柔軟に解決へと取り組んでいくことに限ります。

例えばLipton、Doveなどを手がける消費財メーカーユニリーバはこれを実践している企業の一つです。

彼らはより創造的なアイデアや製品開発のソリューションを大規模な顧客基盤から得ることができれば、消費者や市場のニーズにもっとうまく対応する製品を実現できるのではないかと考えました。そこで、蓄積されたリソースを最大限に活用するために、スタートアップ企業、学者、デザイナー、そして自分たちの製品を利用する消費者の多様な意見を聞き、積極的に製品に関するアイデアを採用するために、2010年にオープンイノベーションプラットフォームをスタートさせました。

このプラットフォームを通じて、ユニリーバは環境に優しいパッケージング、冷蔵・冷却システムなどのテーマについて解決案を募りました。案が承認されると、アイデアの提案者はその解決案を実現するための契約を実際に結ぶことができる、という仕組みです。 このプラットフォームは非常に好評で、2012年前半には1,000件以上の提案が寄せられ、ユニリーバのよりオープンな企業文化の発展を加速させました。現在、ユニリーバの研究の60%以上が外部との共同研究で行われているそうです。このようにユニリーバの「共創」アプローチの例を見ると、オープンイノベーションの価値、そして直接市民に解決策を求めることの可能性を再確認することができます。

また、大企業が主要なプレーヤーであった旧来の競争モデルは徐々に変化しており、イノベーションは連携や共創によってのみ加速される、ニューロマジックではそう確信しています。

参考:代表取締役社長の黒井による記事『最重要価値を決めるコンポーネント以外は競争力のある外部資源と組み合わせる

IBV(IBM Institute for Business Value)が発表したレポート「新型コロナウィルス感染症はビジネスの未来をいかに変えるか」でも、日本の経営層の7割は業界内、6割近くは業界外でパートナー活動を強力に推進する計画を検討しています。いずれの場合も、このような活動への参加は、今後 2 年間で 300% 以上拡大するものと見込まれています。

このバリューは、ニューロマジックのオペレーションの戦略モデルでもあります。

さらに、ニューロマジックではクライアントと共同でプロジェクトに取り組むことにも積極的です。アパレルブランド株式会社ユナイテッドアローズとのプロジェクトでは、調査データによるユーザープロフィールの構築をクライアントと共同で行い、プロセスを強化・迅速化するためにさまざまな分野の方々に参加していただきました。クライアントから与えられた最初のタスクは「ウェブサイト制作」でしたが、私たちは「採用における戦略的パートナーになる」という認識を持ってプロジェクトを進めました。

2. デザインはビジネス戦略における重要度をさらに高めていく

デザイン経営とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。

(出典:特許庁「特許庁はデザイン経営を推進しています」)

日本でも、ビジネスにデザインを導入するという発想は完全に真新しいものではありません。

デザインはもはや、1950年代に提唱された美的・視覚的なデザインや、1970年代に提唱された消費者のニーズを満たすデザインではなく、さらにその先にあるプロセスや考え方、いわゆる「デザイン思考」のことを指すようにもなりました。「人間中心」の概念を基礎に置き、人々のニーズを満たす製品をいかにして作るかを工夫してきたデザイナーたちの考え方が、経営レベルにも生かされるというわけです。

経済産業省は、2018年からデザイン思考の概念を経営レベルで適用することを目指したデザイン経営戦略を推進しています。ビジネスにおけるデザインの可能性について、デザインマネジメントの概念を組織に取り入れている企業の収益成長率が、平均より32%も高いというデータを以前もご紹介したことがあります。

2020年に日本の経済産業省が発表したデザイン経営についてのレポート「デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための”デザイン経営”ハンドブック」ではこのような記述があります。

デザインを重視する企業は、同じようなプロダクトやサービスを販売する競合と比べて30%も高い値付けができることがわかりました。デザインは高い付加価値を生むことができるのです。アップルが良い例です。

いまだにデザイン思考は企業にどれだけの価値をもたらせるのか?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。デザインのパイオニア国とも言えるデンマーク・デザインセンターのCEO、クリスチャン・ベイソン氏はレポートの中でこのように言及しています。

デザインシンキングが考える「価値」は、金銭的な価値ばかりでなく、社会的な価値、公共的な価値を含むものです。人のためになり、社会のためになる何かを作り出していくことで、その結果として我が社にも利益がもたらされることを目指します。

また、この代表的な例としては、トヨタ、ソニー、三井住友銀行や数々の大手経営コンサルティング会社が実際にデザイン組織を買収しており、デザイン思考を経営戦略に導入したことでさらなる成長を遂げています。また、ニューロマジックが社内コミュニケーション改善のためにデザインスプリントを提供した株式会社東芝さまもデザインをビジネスにうまく活かしている企業の1つです。

また、2020年11月に始動したシンガポール国立デザインセンターとマッキンゼー・アンド・カンパニーのコラボレーションによる「Business Value of Design(デザインのビジネス的価値)」プログラムも特筆すべきものがあります。このプログラムでは、2つのフェーズで参加企業を支援し、デザインを用いたビジネストランスフォーメーションを成功に導いていきます。

3. 公共分野におけるデザインの需要が高まる

現在、私たちは、政治的変動、自然災害、新型コロナウイルス感染症など、未だかつてない変化の時代にあり、公共部門の組織は突然の変化に迅速に対応するために、機敏かつ柔軟な対応が求められています。さらに、複雑な未来に直面している政府は、もはやすべての質問に対する答えを知っているわけではありません。そこで、「デザイン」の役割がより重要になってきます。デザインは、ビジネス組織が複雑な組織変更に取り組むための方法を示す道しるべとなり、このプロセスは公共部門にも適用することができるので、公務員が複雑な状況を乗り切り、変化を生み出すのを支援することができるはずです。

国際的には、差し迫った人口問題と成熟したテクノロジーに後押しされて、多くの政府がイノベーションとデジタルトランスフォーメーションを進めていくために、デザインの概念とプロセスを部門内にすでに導入・適用し始めています。国際的に最先端を行く組織としては、英国のデザイン・カウンシル(デザイン政策機関)、日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)、デザインシンガポール・カウンシル、英国のポリシーラボ(政府内のデザインチーム)などがあります。

お子さんの出生記録や予防接種記録をアプリで登録したり、対象となる医療給付や育児を閲覧したりと、市民に密着した内容になっています。(出典:LifeSG公式HP)

例えば、GovTech社が開発したアプリ「LifeSG」は、シンガポールの行政サービスを一括してまとめ、市民それぞれの人生の見通しに基づいてサービスを提供することを目的としており、子どもの誕生や予防接種の記録を登録したり、対象となる医療給付や保育サービスをアプリで確認したりなど、市民が人生の重要な段階でサービスを見つけ、利用しやすくしています。したがってこのアプリは、まず第一に市民を念頭に置いて設計されています。さらに、これらのサービスを既存のプロセスに基づいてではなく、それぞれの人生の流れを見据えた観点から整理できるようにデザインされています。

もちろん、この事例がビジョンの実現に成功したのは、人間中心デザインだけではなく、ステークホルダー(政府機関)間の協力もまた製品のビジョンを実現するための前提条件となっています。つまり政策、プロセス、実施機関といった、省庁を超えた調整や協力によってビジョンが実現するのです。

4. 社会課題や環境問題に関する意識が高まる

これまでの数十年間、ほとんどの企業が「収益の拡大」という1つの目標に焦点を当て、なおかつそのスピードは早ければ早いほど良いものだと考えてきました。しかし現在、人々は経済的な成長だけではなく、より多面的な方法で企業の成功を定義しようとしています。今こそ、企業はより広い視点からのビジネス目標を設定し、ビジネスの持続性を確保するために収益を上げる必要性とのバランスを取るべきだと考えるべきです。ゴールデンサークル理論の提唱者であるサイモン・シネックは次のように述べています。

人は「何を(WHAT)」ではなく「なぜ(WHY)」に反応します。自分の商品を必要とする人に売るのではなく、自分が信じるものを信じてくれる人に売ることを目指すべきです。

ビジネスはもはや単なる商品の売り買いではなく、その奥にある信念もその企業を支持するかどうかの決め手になっています。

また、この世界的なパンデミックによって、一度立ち止まり、考える時間を持つことになった人も多いでしょう。パンデミックの影響は持続可能な開発にも新たな刺激をもたらしました。例えば、経済活動の鈍化に伴って汚染が緩和される様子が目の当たりにされ、コミュニティ内でのより密な繋がりや連携の重要性、またその緊急性が改めて認識されました。

より持続可能なビジネスモデルへの道には、すでに多くの先駆者たちが存在しており、多くの国や企業組織が持続可能な開発や循環型経済に関心を持ち、すでに変革を始めていることは、日本にいる私たちも真剣に受け止めるべき事実です。

例えば、コカ・コーラ社は2月より、米国では100%リサイクルのペットボトルを使用し、パッケージには「Recycle me(リサイクルしてください)」のスローガンを入れることを発表しました。これにより、「2030年までにすべてのペットボトルのリサイクル率を50%にする」という同社の目標に近づいています。

また、米国の代表的なビジネス誌「Fast Company」は、2016年から世界のイノベーションを牽引する企業・団体に「World Changing Ideas Awards(世界を変えるアイデア賞)」を授与し、革新的なアイデアによるポジティブな動きを応援しています。

サステイナビリティ・トランスフォーメーション(SX)戦略策定をご支援します!

ニューロマジックはオランダを拠点に20年の経験を持つサステナビリティ・コンサルタント会社である Except が開発した、サスティナブル戦略策定ガイドブックSiDを日本語に翻訳し、無料ダウンロードを提供しています。SiDのプロセスでは、根本的な問題を特定し、システム的な観点から解決策を発想することができます。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)について関心をお持ちの方は、ぜひご利用ください!本SiDメソッドのワークショプの企画、ファシリテーションをご依頼いただけます。

どうぞご気楽にお問い合わせください

5. デジタルトランスフォーメーション(DX)におけるデザインの役割とは

この世界的な大流行が、従来の働き方に根本的な変化をもたらしたことは間違いありません。すべての組織は、リモートワークの有効性を高めるために、デジタルトランスフォーメーションを加速することを余儀なくされています。マッキンゼーが世界の企業経営者を対象に行った調査によると、企業の顧客やサプライチェーンとのやりとりや社内業務のデジタル変革は、新型コロナウイルスによって3〜4年近く加速されています。また、デジタルトランスフォーメーションのための技術システムや製品への投資も、7年近く加速し続けていることが分かっています。

デジタルチャネルが顧客エンゲージメントの主要な(場合によっては唯一の)手段となった今、自動化されたプロセスが生産性向上の中心となるでしょう。そのため、テクノロジーとデジタルトランスフォーメーションを企業の運営にうまく融合させることが、今後、避けては通れない道となるでしょう。

また、先ほどもご紹介したIBVの「新型コロナウィルス感染症はビジネスの未来をいかに変えるか」によると、以下のように述べられています。

成功の鍵は人的資源

また、経営者層は、将来のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて投資を行い、技術力の向上に取り組もうとしているかもしれませんが、人材こそが成功の秘訣になるとも言われています。同レポートの調査データによると、ビジネスの成長に最も大きな影響を与える競争力は、企業の人材育成やカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントなど従業員と顧客に関わる競争力です。しかし、この要素は過去2年間、経営層によって見過ごされてきました。さらに、日本の経営者の4分の3以上は、新型コロナウイルス感染症の流行以降も、顧客の行動は完全に以前のように戻るのではなく、オンラインショッピングやオンラインでのカスタマーサービスに移行すると予測されています。このため、経営層のおよそ8割は、顧客体験管理の優先順位が直近 2 年間で高くなると見ているというデータがあり、これは2年前の約3割と比べると大きく増加しています。

一方で、顧客サービスを向上させながら、従業員の満足度や福利厚生に配慮することに成功すれば、企業の競争力を高めるための重要な機会のひとつになるでしょう。

つまるところ、「人的資源」が成功の鍵を握っているということは、人間中心主義を重視したデザインの考え方が有効になることが理解できます。 デザインのマインドセットでは、社会への共感を持ち、批判的に考えることで、この社会により良い影響をもたらすことが重要です。現在加速しているデジタルトランスフォーメーションに人間中心のデザインを適用することで、テクノロジーを常に人間の本質にそぐうものにし、包括性と利用可能性を保ちながら、このトランスフォーメーションの波に誰も取り残されないようにすることができます。そして、このときに強化されるのは顧客体験だけではなく、企業は従業員体験も考慮に入れるようになるはずです。

最後に

共創やデジタル技術の革新という概念は最近出てきたものではありませんが、記事で紹介した5つの側面は、私たちの行動様式に大きな影響を与えるでしょう。そして、経済や人間の生活形態が進化しても、変化のペースが遅くなることはないと考えられます。

したがって、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる時代に立ち向かうためには、これらの変化に柔軟かつ俊敏に対応していく必要があります。変化は止まることがありません。そんなとき、学ぶ勇気や、挑戦する勇気を持つことが非常に重要になります。そして、デザイン思考は、私たちが暗闇の中を歩んでいくための心強いツールとなるのではないでしょうか。


デザイン思考やサービスデザインにご興味のある方は、ぜひこちらに問い合わせください。

林 静瑩

サービスデザイナー
台湾出身。2019年ニューロマジック入社。前職で培ったマーケティング領域での経験を活かし、現在はデザインスプリントのメニュー設計やファシリテーションを行う。中国語、英語、日本語を巧みに操るトリリンガル。

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