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人を動かすマーケティング:ゴールデンサークル理論

   

近年、ブランドや組織の社会的なインパクトを重視する人はこれまで以上に増えています。消費者が社会や環境の豊かさを意識するようになったことで、企業が社会的責任を果たすことはもはやイメージアップのためではなく、成功のための必須条件だと言えるでしょう。では、どうすれば自分達の立場を消費者にうまく示すことができるのでしょうか。まずは、自分たちの「ゴールデンサークル」を定義、もしくは再検討することから始めてみましょう。

人は「何を(WHAT)」ではなく「なぜ(WHY)」に反応します。自分の商品を必要とする人に売るのではなく、自分が信じるものを信じてくれる人に売ることを目指すべきです。

Simon Sinek

10年以上前、話題となったTEDトーク『優れたリーダーはどうやって行動を促すか』でSimon Sinekはゴールデンサークル理論を紹介しました。ここで彼は、すべての成功者がWHYで行動を起こし、続いてHOW、そして最後にWHATに繋げるというパターンに従っているとし、さらにあらゆる企業や組織が成功していくためにはWHY、HOW、WHATの順でコミュニケーションするべきだと話しました。

ゴールデンサークルとは?

なぜ? どうやって? 何を? この小さなアイデアで、ある組織やリーダーが、どうして他にはない力を得られるのか説明できます。

Simon Sinek

ゴールデンサークルの背後にある考え方は、実はかなりシンプルで、個人のみならずあらゆる組織に当てはまります。なぜなら、基本的にすべての個人、組織には、WHY、HOW、WHATがあるはずだからです。

ゴールデンサークル

しかし、WHY、HOW、WHAT全てを明確にできている人は果たしてどれほどいるでしょうか?

誰もが自分達のWHATを知っています。WHATとは、提供している具体的な製品やサービスのことです。さらに、一部の人々はHOWを認識しています。HOWとはつまり、製品やサービスを「どのように」提供するかということ。このHOWを独自の価値提案(UVP)または独自の販売提案(USP)と呼ぶこともあります。

しかし、ビジネスの背後にあるWHYを、本当の意味で認識している企業はほとんどありません。WHYは’利益を出すこと’とお思いの方もいるかもしれませんが、利益はWHYの答えにはなり得ません。それは単なるビジネスの結果に過ぎないからです。ではWHYはどんなものなのかと言うと、ビジネスを前進させる目的、原因、信念といったものです。この「WHY」は、人々に毎朝ベッドから出て仕事をするように動機付け、消費者が製品に興味を持つように仕向け、全体的に組織を動かすものというわけです。

Simon SinekはTEDの中で例としてAppleを取り上げ、最初に、WHYではなくWHATに焦点を合わせた場合にAppleがどのように伝えるかについての例を示します(WHAT→HOW)。

「我々のコンピュータは素晴らしく(WHAT)、美しいデザインで簡単に使え、ユーザフレンドリー(HOW) です。ひとついかがですか?」

この言葉に間違いはありません。アップルは、美しくデザインされた素晴らしいコンピュータを提供しています。しかし、みなさんはこのコンピュータを買いたいと思うでしょうか?

次に、SinekはWHYから導かれる例文を示します(WHY→HOW→WHAT)。

「我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています(WHY)。私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて、親しみやすい製品です(HOW)。こうして素晴らしいコンピュータができあがりました(WHAT)。一つ欲しくなりませんか?」

さて、これら2つの説明のうち、どちらにより説得力を感じるでしょうかどちらのコンピューターを購入したいと思うでしょうか?もちろん、2番目の例ですよね。これこそが、WHYから始めるべき理由です。世の中、コンピューターを買いたいと思っている人はたくさんいます。また同時に、高品質で信頼性が高く、さらに洗練されていてスタイリッシュな製品もまた、市場に山ほどあるというのが現実です。激しい競争の中で、他との違いを生む最後の分かれ目は、一個人として信頼でき、ついて行きたいと思える会社のものであるかどうか、ということです。

科学的な裏付け

photo of head bust print artwork

ゴールデンサークルが単なるビジネスコンセプトではなく、実は科学的な根拠に基づいていることを簡単にご説明します。まず、人間の脳は3つの異なる部分に分かれています。新皮質と呼ばれる部分は合理的な思考と言語をつかさどる部分で、ゴールデンサークルの「WHAT」に対応しています。ここで製品またはサービスが持つ特性に関する情報を処理しているのです。一方で、私たちの大脳辺縁系の頭脳(2つ)は、感情、信頼、忠誠心、そして意思決定をつかさどっていている部分です。なお、この部分は言語には関与していません。言語処理や、技術的特徴の理解ができない、脳のまさにこの部分が意思決定を行っているということです。この大脳辺縁系は、ブランドの背後にある推進目的である強力な「WHY」によってのみ動機付けられるというわけです。

なぜゴールデンサークルが今これほど重要なのか

今日の世界においてブランドや製品の開発は全てWHY、すなわち私たちが何をするかを後押しする目的こそが起点となっていくはずです。こういった考え方は、国際社会だけでなく、国内の専門家の間でも広まりつつあることをご存知でしょうか。日経のXTrendの「未来の市場をつくる100社 2021年版」は以下の一文から始まり、WHATに依存するビジネスをWHYに基づくものへと変えていく必要性を示唆しています。

“新型コロナで先を見通すことが難しい状況の中、変化に対応し、新たなビジネスを生み出そうとする企業はどこか。単に新しいだけ、面白いだけではもはや通用しない。

日本最大の広告代理店で、市場調査会社の一面を持つ電通も、国連が設定した持続可能な開発目標に対する意識の高まりを示す、第三回「SDGsに関する生活者調査」を発表しました。これらの目標には、ジェンダー平等、飢餓の撲滅、貧困、地球温暖化の鈍化などがあります。実際に、ニールセンの「企業の持続可能性への取り組みに関するグローバル調査」(15年実施、60の国と地域で3万人以上を対象)によると、ミレニアル世代は73%が持続可能な製品なら高くても購入すると回答しているそう。サスティナビリティへの取り組みが、購買行動にも大きく影響する時代になっていることがわかります。

ところで、Appleの例は10年以上も前に用いられたものです。ここでサスティナビリティに取り組む企業の最近の一例として、アウトドアブランドのパタゴニアを見てみましょう。

パタゴニアは、靴、キャンプ用品、スポーツウェアなど、アウトドアアクティビティに関連するさまざまな製品を扱っています。製品は耐久性と品質で定評がありますよね。もしパタゴニアが他のビジネスと同じようであったら、こう言うかもしれません:

私たちはアウトドアスポーツウェアについて広範な研究を行い、アウトドアアクティビティ用の耐久性のある高品質のウェアを作成しました(WHAT)。

それほど聞こえは悪くないですね。ただ、ほとんどすべての企業が同じようなことを言えてしまい、ユニークとは言えないでしょう。パタゴニアを際立たせているのは、彼らの「WHY」へのコミットメントと、それらの推進価値を世界と共有するその方法です。WHYに通じるメッセージはウェブサイトの「独特な事業」のページにあり、次のような言葉から始まっています。

パタゴニアジャパンによるこの広告も併せてみてみると、WHYの伝え方がよくおわかりいただけるかと思います。実際に、環境保護のために消費者に対し購入を減らすよう勧めています。

パタゴニアは、動画の視聴者に購入を減らすように勧めているにも関わらず、利益は年々増加し続けています[出典]。製品とその提供方法を伝えるだけでなく、ブランドの背後にある目的を伝えることによる力を、ここでも実感することができますね。

ゴールデンサークルを使ってみよう

最後に、ゴールデンサークルを普段の仕事の中でうまく活用する方法をいくつか紹介します。

  • 企業文化の一部にする:ゴールデンサークルを十分に理解し、他の人に伝えることができる人が社内にいなければ、あなたのWHYにはあまり意味がありません。これは、共感を構築するために組織の背後にある目的を伝える必要がある、営業やマーケティングに非常に重要です。
  • コミュニケーションの最前線に置く:特に今、企業はアクションの背後の目的について人々に共有する必要があります。ホームページやソーシャルメディアなどさまざまなチャンネルで伝えるようにして、コミュニケーション戦略に盛り込みましょう。
  • 新しい事業ごとに意識する:Appleの「WHY」が一貫性を保ちながら、多様な製品を作り出しているように、他の製品ラインの新たな開発やサービス拡張においても常に意識しましょう。

いかがでしたか?ニューロマジックが作成した「マーケティングアライメントワークショップ」のmiroボード(英語のみ)をお使いいただけます。このワークショップではゴールデンサークルに合わせたマーケティング目標を設定することができます。

自社のゴールデンサークルを早速作ってみたい、という方のために、今すぐに使えるPDFもご用意しています。

ゴールデンサークル ・テンプレートをダウンロード:

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