「サービスデザインをめぐる疑問に答えるーUXデザインやCXデザインとの違いは?」のアイキャッチ画像

share

サービスデザインをめぐる疑問に答えるーUXデザインやCXデザインとの違いは?

   

「サービスデザイン」という用語は、1982年にEuropean Journal of Marketingの論文How to Design A Service の中で、Lynn Shostackによって初めて使用されました。それから40年、サービスデザインは、独自のプロセス、ツール、さらに定義を持つデザイン分野になっています。しかし、いまだに多くの人が(サービスデザイナーでさえも)サービスデザイナーが何をしているのか、他のビジネスやデザインの分野とどのように違うのかという問いに明確な答えを持っていないのが現状。この記事では、サービスデザインの基本的な原則を確認し、この分野を取り巻くいくつかの誤解や混乱を解説していきます。

Table of Contents

サービスデザインとは

どのエージェンシーや組織にも、それぞれのサービスデザインの定義がありますが、いくつか共通点があります。

まずは、業界のリーダーがサービスデザインをどのように定義しているかを確認してみましょう。

サービスデザインは、確立されたデザインプロセスとスキルをサービス開発に応用すること。これは、既存のサービスを改善し、新しいサービスを創り出すためのクリエイティブで実用的な方法です。

Livework Studio

サービスデザインは、サービスインターフェイスが顧客の観点から使いやすく、使用可能で、望ましいものであり、提供者の観点から効果的、効率的、かつ特徴的なものであることを保証すること、それを目的としています。

Service Design Network 代表 Birgit Mager

サービスデザインのUSP(ユニーク・セリング・プロポジション:Unique Selling Proposition) の中心にあるのは、物事を予測する力。私はこれが重要だと思っています。

「The Service Startup」著者 Tenny Pinheiro

サービスデザインは、包括的で共創的な、ユーザー中心のアプローチを通じてサービスの質を向上させる手法です。サービスデザインは、サービスエコシステムにおけるサービス提供者、ユーザー、その他のステークホルダー全員の体験を重視しています。

もう少し深く掘り下げてみましょう。これまでのやり方でサービス開発を進める際、サービスそのものを見つめながら、サービスの提供方法という1部分のみに焦点を当てて開発していく傾向があり、実装前にユーザーの意見を取り入れることはほとんどありません。参考にコーヒーショップの例を取り上げてみましょう。多くの場合、どのようにスタッフが顧客に飲み物を提供するか、というところに注目しています(これはサービスタッチポイントの一つになります[1])。ただし、より包括的な観点で見ると、カップ、コーヒー豆、シロップを店舗に届ける方法、最も効率的にそれらを整理する方法、品質の均一な飲み物を作るためのトレーニング方法なども検討する必要があります。

サービスエコシステム全体には、物流、マーケティング、店舗運営部門などあらゆる関係者が含まれています。これらのステークホルダーがまとまり、1つのサービスを構成するには、各部門がそれぞれの決定事項を共有し、導入後にユーザーのフィードバックを得てサービスの評価を行うという方法がこれまで一般的でした。一方サービスデザインでは、ユーザーの視点を考慮しながら、一見ばらばらに見えるサービスの要素を包括的に捉え、それぞれの繋がりを可視化するというアプローチが特徴的です。

旅行業界におけるサービスエコシステムの例
旅行業界におけるサービスエコシステムの例

このようにして、サービスデザインではサービスエコシステム全体をユーザーの視点から評価し、改善することができます。これらの改善は、ユーザーと従業員の両方を対象としています。

サービスの改善を行うということ自体は新しい発想ではありません。サービスの提供を行う組織が、サービス品質の改善を行うことは、これまでにも行われてきました。一方で、サービスデザインの手法を使ったイノベーションの特徴は、人間中心のデザイン思考を通じて行われているという点にあります。この方法では、ユーザーのニーズを起点とし、あらゆるステークホルダーと一緒に解決策、つまり真に求められるサービス案を練っていくのです。多くの組織で、これらを実現するためにサービスデザインが採用されています。

サービスデザイン vs. サービスをデザインすること

特にヨーロッパでメインストリームになりつつあるサービスデザインですが、日本ではまだ事例が多くありません。ニューロマジックのクライアントさまの中には、新しい製品やサービスを開発しようとする際に、このキーワード「サービスデザイン」を見つけられている方もいらっしゃるようです。「サービスデザイン」と「サービスをデザインすること」、つまりサービスを設計したり、改善したりすること、これらの違いはどこにあるのでしょうか?

まず、サービスをデザインする、つまり開発するのには様々な方法があります。標準的な手順としては、ターゲットとなるユーザーがどのような問題を抱えているかという仮説を設定し、ユーザーへの定性調査で問題を定義し、プロトタイプの制作と検証を実施し、そして製品やサービスが市場に適合しているかどうかを確認します。

多くの場合、サービスを開発する際には、ユーザー体験のみに焦点を当て、ユーザージャーニーの中で単一のタッチポイントに焦点を当てることを意味しています。

サービスデザインは、どのようにしてサービスの始めから終わりまでを実行するのかという、より包括的な視点に関与します。これには、従業員の体験や使用するシステムなども含まれます。

一方で、サービスデザインは少し違います。サービスデザインは、どのようにしてサービスの始めから終わりまでを実行するのかという、より包括的な視点に関与します。これには、従業員の体験や使用するシステムなども含まれます。

製品を作るときに、なぜサービスデザインと「従業員の体験」を気にする必要があるのかと疑問に思うかもしれません。実は、組織内での動きは、ユーザーとの直接のやり取りと同じくらい、顧客体験全体に大きな影響を与えているからなのです。

例えば、注文カウンターを担当するカフェのバリスタがお客様の注文の伝達に失敗した場合、飲み物の製造を担当する店員が間違ったドリンクを作ってしまい、お客さんに満足してもらえなかったり、お届けが遅れたりする可能性があります。ただし、忙しい時でも、注文を受けてから店内で伝達をうまく行う体系的なプロセスが確立している場合、顧客と従業員、両方の満足度が高くなります。もちろん、これは簡単な例ですが、今日の複雑化しているサービスにおいて、適切なサービスデザインを行うことが非常に重要になる理由がお分かりいただけたかと思います。

サービスデザイン vs. UX デザイン vs. CXデザイン

デザインの権威は、カスタマーエクスペリエンス(CX)、ユーザーエクスペリエンス(UX)、およびサービスデザイン(SD)の相違点と類似点についてさまざまな意見を持っています。ニューロマジックでは、これらの用語とその定義は時間とともに変化すると考えています。そのため、私たちは日々デザイン分野の変化を読み取り、これらの言葉がニューロマジックにとって何を意味するのかを定期的に話し合っています。

CX、UX、SDの違いと類似点について説明する前に、それらの意味について基本的な理解を深めましょう。

  • カスタマーエクスペリエンス:CXとも呼ばれるカスタマーエクスペリエンスは、ビジネスやブランドでのエクスペリエンスに対する顧客の全体的な認識のこと。この認識にはビジネスの中で顧客が持つすべてのタッチポイントが含まれます。レストランを例にとると、カスタマーエクスペリエンスは、顧客がWebサイトまたはお店のレビューを閲覧したその瞬間から始まり、顧客が完全にサービスの範疇から外れたときに終了します。それは、全体的な経験、使用を継続または辞める可能性、および他の人に推奨する確率で測定できます。
  • ユーザーエクスペリエンス:サービスは、カスタマージャーニー中のさまざまなタッチポイントの中における、ユーザーとサービスシステムとの一連のやり取りで構成されています。 UXは、製品を使う人々と、その使用、つまり操作から得られる体験を扱います。 UXは、成功率、タスクを完了するまでにかかる時間、また(主にデジタルであるため)クリックの数などの指標で測定されます。

サービスデザイナーとカスタマーエクスペリエンス(CX)デザイナーはどちらも、組織とやり取りする際の人々の体験の改善に取り組んでいます。では、なぜ同じ仕事のように見えるものに異なる名前を使っているのでしょうか。

Global Service Design Networkの雑誌「Touchpoint」は、記事「Service Design and CX: Friends or foes?」でこれらの棲み分けをうまく説明しています。

これらの違いは、CXのよりデータドリブン型のアプローチとサービスデザインのより定性的なアプローチにあります。これらは目標の違いから生じ、成功の測定方法を決定しています。

Service Design Network

カスタマーエクスペリエンスは、ユーザーがあなたのサービスや製品をどのように認識するかを軸にしている一方、サービスデザインはユーザーの認識だけでなく、これらの体験を計画どおりに提供するための舞台裏の動きにも重点を置いています。CXにおいて、舞台裏について語られることはあまりありませんよね。

もう1つの違いは、企業は顧客満足度、顧客解約率、サポートチケットなどの定量的データを使用してCXを測定する傾向があるのに対し、サービスデザインでは問題定義、ブループリント、コンテキストデータ分析、ラピッドプロトタイピングなどの人間中心的アプローチを使い、より定性的に現状を把握しようとします。

もっと深く理解するために、各役割の仕事内容を見てみましょう。

サービスデザイン、UXとCXの仕事内容
  • 英国政府のデジタルサービスでのサービスデザイナー:サービスデザイナーは、サービスのエンドツーエンドの旅を設計します。これによって、ユーザーは目標を達成し、政府は政策の意図を効果的に実現できます。この仕事では、政府のさまざまな部門が提供するデジタルチャネルとオフラインチャネルの両方で、やり取り、製品やコンテンツを作成したり、変化させることがあります。
  • メルカリのUXデザイナー:UX /プロダクトデザイナーは、メルカリのアプリのUX/UIを改善し、通知やプロモーションなどを利用しながらユーザーとコミュニケーションをする方法を決めていきます。さらに、UX /プロダクトデザインの従来の概念を超えたさまざまなデザイン関連タスクも担当します。会社全体の戦略的イニシアチブを計画、開発し、アイテムカテゴリの展開と購入体験を刷新し、大規模なプロモーションのためのクリエイティブディレクターとして活躍します。
  • Spotifyのカスタマーエクスペリエンスリーダー:この役割は、カスタマーサービス部門からのデータを使用して体験の改善点を明らかにし、具体的に改善する方法を探ります。

これら三つの分野を比べてみるとどうでしょうか。ここで伝えたいのは、サービスデザイン 、UXデザインとCXは関係し合っているということです。これらの異なる分野が協働し、適切な場面でそれぞれを組み合わせる必要があります。

例えば、CXの専門家がサービスデザインの考え方を採用することで、定量的なデータ主導型のカスタマーエクスペリエンス分野に、デザイン的な考え方、デザインプロセス、定性的指標を加えることができます。

一方、UXデザインにサービスデザインの考え方を採用すると、包括的でシステム的な視点が追加され、ユーザー体験の流れがより良く、より一貫したものになります。

サービスデザインツール

サービスデザインはある種のマインドセットだと言うことができます。サービスデザインには実はデザイナー以外の人が仕事に組み込むことのできるフレームワーク、プロセスもあるのです。

最も人気のあるサービスデザインツールをいくつかご紹介します。 

サービスブループリント参考例

サービスブループリント:サービスブループリントは、サービスジャーニー全体のフロントエンド(見える部分)とバックエンド(裏側の部分)を細かく表に示すために使います。サービスのシステム全体を一度に視覚化することで、問題と改善点を特定するのに役立ちます。

カスタマージャーニーマップの例

ユーザー/カスタマージャーニーマップ:ユーザージャーニーマップは、ユーザーがサービスをどのように体験しているかを視覚化するのに役立ちます。具体的には、サービスの利用中にユーザーがどのように思考し、感じているのかといったことを詳しく見ていき、ユーザー、そして遭遇する可能性のあるペインポイントの理解を深めます。

ペルソナの例

ペルソナ:サービスを作成、あるいは改善するとき、サービス提供者としてユーザーの立場に立つ必要があります。ペルソナは、想定するターゲットに顔と名前をつけることで、より深く共感するのに役立つツールです。作成方法としては、定性的調査と定量的調査を組み合わせることで構築していきます。

The Future of Service Design

では、サービスデザインの次のトレンドは?Service Design Network の代表であるBirgit Mager氏は、最近出版した「The Future of Service Design」の中で、いくつか将来のトレンドについて言及しています。

  • サービスデザインは、戦略レベルで組織に一層大きな影響を与える: 人間中心の探索的でクリエイティブなアプローチは、事業においてますます重要な役割を果たし、企業の文化や構造にも影響を及ぼします。考え方、仕事の進め方としてのサービスデザインは、自然と組織の一部になっていきます。大規模な経営コンサルタントは引き続きサービスデザインエージェンシーを買収し、企業や公的機関はサービスに特化した部門を作っていくでしょう。
  • 持続可能性の問題が無視できないものになる:コロナ禍を経験した今、持続可能性はもはや企業のスローガンやイメージアップの文句ではありません。持続可能性を取り巻く複雑な問題を解決するためには、分野横断的な協力が必要です。サービスデザインでは、さまざまな分野の専門家が集まり、問題を総合的に検討しながら共通言語を使って話すことが可能なため、このような機会が今後重要になるでしょう。
  • 他の多くの分野と同様に、テクノロジーが欠かせないものに: サービスデザインは、オンライン空間、インターネット上で確固たる地位を確立していきます。この傾向は新型コロナウイルスの流行に端を発したものではありませんが、確かにこの一年間をもって加速しました。
  • 加速されたデジタル化の波によって、サービスデザイナーの仕事は仮想空間や遠隔地でも可能になる: 弊社は、過去1年間に多数のリモートワークショップを実施しました。実践としてのサービスデザインは新しいテクノロジーに支えられ、サービスとプロダクトも新しいデジタルプラットフォームに移行し続けるでしょう。

サービスデザインの未来については、Liveworkラテンアメリカ支部の創設者であるTenny Pinheiroとのインタビューでも彼の見解をご覧いただけます。

サービスデザインについてさらに詳しく知りたいという方は、ニュースレターへの登録やニューロマジックSNSのフォローをしていただくと、最新情報をご覧いただけます!

1. サービスタッチポイント: 製品、ブランド、ビジネス、あるいはサービスと顧客のあらゆる接点のこと。タッチポイントは物理的にも、デジタルなものにもなり得ます。(例えば、カスタマーサポートへの電話、ウェブサイトの訪問など)

林 静瑩

サービスデザイナー

台湾出身。2019年ニューロマジック入社。前職で培ったマーケティング領域での経験を活かし、現在はデザインスプリントのメニュー設計やファシリテーションを行う。中国語、英語、日本語を巧みに操るトリリンガル。

New call-to-action