「省エネ」「節電」「再生可能エネルギー」をテーマに、サステナブルな社会の実現のために独自の視点を加えて実行している都市のケーススタディ(オランダのデルフト・フィンランドのヘルシンキ)やヨーロッパ各国(スウェーデン・デンマーク・スペイン)が取り組んでいる大きな流れを紹介します。
WMO=世界気象機関の最新のデータによると、ヨーロッパの2022年の平均気温は、フランス・イギリス・ドイツ・スペイン・イタリアなどで観測史上最高の暑さを記録。産業革命(1760年代から1830年代)前と比べておよそ2.3度も気温が上昇しています。緯度が高いヨーロッパは世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいるとされ、厳しい気候変動と闘い、サステナブルなエネルギー活用の岐路に立たされています。
このような背景もあり、ヨーロッパでは省エネにまつわる革新的な技術とさまざまな政策を推進し、世界の国々のヒントとなるような指標を設定、成し遂げてきた実績があります。アグレッシブなエネルギー転換計画から画期的な再生可能エネルギー・プロジェクトに至るまで、ヨーロッパ諸国は二酸化炭素排出量を削減し、よりクリーンで環境に優しい方法を取り入れるというコミットメントを示してきました。
2022年、ヨーロッパ諸国は風力・太陽光発電の合計が石炭・天然ガスの発電量を上回るという快挙を成し遂げました。(※1)日本の発電の内訳は化石燃料による火力発電が69%、温室効果ガスを発生しない原子力発電の割合は5%、再生可能エネルギー発電の割合が22%となっています。さらに、日本の再生可能エネルギーの内訳(※2)をみると風力0.9%・太陽光発電9.9%、水力7.1%と、いかにヨーロッパが先を歩んでいるかがわかります。
※1:エネルギー自然財団 「2022年 電力消費量に占める自然エネルギーの割合」

※2:環境エネルギー政策研究所「2022年日本国内の発電電力量に対する自然エネルギーの割合」
このたびは2回にわたり「エネルギーニュートラルな都市」「エネルギー効率の良いスマートシティ」「風力発電革命」「廃棄物発電」「再生可能エネルギー」「集光型太陽光発電」などの成功事例を紹介します。サステナブルなエネルギー社会を実現するための政策、地域社会の関わり方、イノベーションなど「今何が必要なのか」を知ることができます。
1. エネルギー・ニュートラル・デルフト(オランダ)

「エネルギー・ニュートラル」という言葉をご存じでしょうか?日本ではまだなじみの薄い言葉ですが、電気の全てを自然エネルギー・再生可能エネルギーなどの持続可能な資源から生み出すことを意味します。
オランダの風光明媚な都市デルフトは、「再生可能エネルギーの促進」「エネルギー消費の削減」という戦略により2050年までに「エネルギーニュートラル」を実現するという目標を掲げています。
【主な取り組み】
サステナブルな建物:
最新の断熱材、スマート・エネルギー管理システ ム、ソーラーパネルやヒートポンプなどの再生可能エネルギー・ソ リューションを統合したエネルギー効率の高い建物の建設に力を入れています。
電気自動車:
電気自動車(EV)の充電インフラを拡大し、EV所有者にインセンティブを提供することで、その普及を促進しています。デルフト市は、電気自動車への移行により、運輸部門からの温室効果ガス排出量の削減を目指しています。
地域暖房:
産業や発電所からの廃熱を回収して建物に暖房と給湯を供給する地域暖房システムを活用し、エネルギーの浪費を抑えて二酸化炭素排出量を削減しています。
地域社会の参加:
全ての取り組みには、地域住民の参加が不可欠です。デルフト市はコミュニティ・ソーラー(電力会社、地方自治体等が太陽光発電所を地域の配電用変電所の近くに設置し、地域の電力として運用・運営するしくみ)やエネルギー協同組合などの省エネルギープロジェクトへの参加に、時にはSNS等も活用しながら住民に呼びかけています。
インパクト
デルフト市のエネルギー・ニュートラルに向けた取り組みは、温室効果ガス排出量の削減、クリーンエネルギーの利用拡大、エネルギー安全保障の強化につながりました。デルフト市は、地域のイニシアティブと住民参加によって持続可能な未来への道を開くことができることを示す先進的な事例となっています。
参考URL 一例: ● https://www.tudelft.nl/en/energy/ ● https://dutchreview.com/news/first-dutch-climate-neutral-train-station-is-a-success/ ● https://nltimes.nl/2022/06/01/tu-delft-opens-sustainable-energy-producing-building
2. フィンランドのスマート・シティ
フィンランドのサステナブルな都市開発への取り組みは、エネルギー効率の高い生活と先進的な都市計画を体現するヘルシンキのスマート・カラサタマ地区のプロジェクトにあらわれています。2023年の世界スマート・シティランキング(※3)で、ヘルシンキは9位、日本からは東京が78位、大阪が98位にランクインしています。
【主な取り組み】
エネルギーに配慮した建物:
ソーラーパネル、エネルギー貯蔵システム、パッシブデザイン(日射・気温・風・雨水・地熱などを上手に利用してエネルギー消費を抑え、快適な生活環境を設計する手法)消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生み出すエネルギー・ポジティブ・ビルを特徴としています。余剰エネルギーは送電網に供給され、この地区はエネルギーの生産地ともなっています。
スマートグリッドの統合:
スマートグリッドとは、「次世代電力網」と呼ばれる新たな電力供給システムのことです。電力供給側と需要側の両方から制御できる双方向の電力網を構成することで、使用する電力量を最適化します。脱炭素の実現を目指す上では必要不可欠な取り組みといわれています。
同地区は、エネルギー配分を最適化するこのスマートグリッド技術を取り入れ、電力使用量のリアルタイム監視と制御を可能にしています。スマートグリッドはエネルギー効率を確保し、無駄を最小限に抑える効果があります。
緑地と公共交通機関:
歩行者に優しい設計、十分な緑地、効率的な公共交通機関の選択肢を重視したまちづくりを推進しています。徒歩、自転車、公共交通機関を優先させることで、自家用車への依存を減らし、それに伴う排気ガスも削減しています。
インパクト
カラサタマは、インテリジェントな都市計画とエネルギー効率の高いインフラが、いかに持続可能なコミュニティを創造できるかを示しています。エネルギー管理と環境に配慮した生活に対するこの地区の革新的なアプローチは、今後の都市開発の新たな基準となるでしょう。
参考URL 一例: ● https://fiksukalasatama.fi/en/smart-city/ ● https://forumvirium.fi/en/publication/smartkalasatama-final-report/ ● https://knowledge-hub.circle-lab.com/article/5234?n=Smart-Kalasatama---Smart-City-District-of-Helsinki
3. スウェーデンの″ゴミ″発電と再生可能エネルギー
2022年、環境先進国として知られるスウェーデンは化石燃料による発電(石炭、ガス、石油)0%の快挙(※1)を成し遂げました。電力消費量に占める自然エネルギーの割合は86%で、内訳は風力発電23%、水力発電52%、バイオ発電が9%を占めています。2040年までに再生可能エネルギーの割合を100%にすると公表しており、廃棄物発電と再生可能エネルギーの推進に国全体で取り組んでいます。
【廃棄物発電とは?】
家庭や事業所からでるリサイクルができないゴミ(廃棄物)を燃料とした発電方法です。処理場でごみを燃焼する際に発生するエネルギーを発電に使用し、回収された熱エネルギーは家庭や公共ビルなどの地域暖房システムに活用されています。スウェーデンでは家庭ごみのうち、埋め立てられるのはわずか1%以下、残り99%の半分がリサイクル、半分が廃棄物発電に活用されています。このように「ゴミ」=廃棄物を貴重なエネルギー資源へと転換するという成功を収め、廃棄物に対するサステナブルなアプローチを実証しています。
【主な取り組み】
廃棄物発電施設の積極的な開発:
リサイクルができない廃棄物を焼却し、熱と電気を生み出す先進的な廃棄物発電施設を開発しています。これらの施設は、効果的な廃棄物管理を実現すると同時に、埋立地も不要なため、環境への悪影響も削減しています。
コージェネレーション:
スウェーデンの多くの廃棄物発電施設では、廃棄物焼却時に発生する余剰熱を地域暖房に利用するコージェネレーション技術が採用されています。コージェネレーションはエネルギー効率を最大化し、廃棄物を最小限に抑える点が評価されています。
その他の「ゴミ」活用法:
生ごみや汚泥からバイオガスを発生させ、バスやフェリーなど公共の乗り物の燃料や一般家庭むけのガスに活用しています。
インパクト
スウェーデンの廃棄物発電の成功は、廃棄物を持続可能な形で管理すると同時に、国のエネルギー供給にも大きく貢献しています。革新的なこの手法を取り入れることで、スウェーデンは廃棄物を再生可能エネルギー源に変え、化石燃料への依存を減らす先進的なモデルとなりました。
参考URL 一例: ● https://earth.org/sweden-waste-to-energy/ ● https://smartcitysweden.com/focus-areas/energy/waste-to-energy/ ● https://www.blueoceanstrategy.com/blog/turning-waste-energy-sweden-recycling-revolution/
4. デンマークの風力発電革命
デンマークは世界で最も風力発電の割合が大きい国で、風力発電導入の世界的リーダーとして知られています。2020年には風力を中心としたVRE(変動性自然エネルギー)の割合が50%を超え、VREの割合が比較的高いヨーロッパ各国の中でも最も高いレベルとなっています。
【主な取り組み】
洋上ウインドファーム:
デンマークは、その広大な海岸線と恵まれた風を活かし、洋上ウィンドファームに多額の投資を行っています。これらのウインドファームは、海からのクリーンエネルギーを利用し、国の電力網に大きく貢献しています。
陸上風力エネルギー:
洋上風力発電のほか、陸上風力発電プロジェクトも積極的に開発しています。
研究開発:
デンマークは、風力エネルギー分野における研究と技術革新の文化を強く育んできました。研究への投資は、より効率的で費用対効果の高い風力タービンの開発につながり、風力発電におけるデンマークの成功を後押ししています。
インパクト
デンマークの風力発電革命は、二酸化炭素排出量の大幅な削減、エネルギー自給率の向上、再生可能エネルギー分野での雇用創出につながっています。同国の風力発電への取り組みは、より環境に優しいエネルギーの未来への移行を目指す他の国々にとって、刺激的・先進的なモデルとなっています。
参考URL 一例: ● https://www.statista.com/topics/8770/wind-power-in-denmark/ ● https://www.nsenergybusiness.com/features/denmark-electricity-wind-power/ ● https://www.dw.com/en/denmark-to-construct-artificial-island-as-a-wind-energy-hub/a-56458179 ● https://www.bbc.com/news/world-europe-55931873
5. スペインの集光型太陽光発電
スペインの電力消費量に占める自然エネルギーの割合は46%と高く、その中でも太陽光は12%を占めています。(※1)太陽エネルギーへのコミットメントは、集光型太陽熱発電(CSP)プラントへの多額の投資に表れています。CSP技術は、鏡やレンズを使って太陽光を小面積に集中させ、高温を発生させて蒸気タービンを駆動して発電する技術です。サンベルトのような乾燥した直達日射 量が高い地域への設置が特に有効とされています。
【主な取り組み】
CSPプラント:
スペインは、2007年から稼働したセビリアのタワー式太陽熱発電所PS10プラントやPS20プラントのような大規模なCSPプラントを開発しています。これらのプラントは熱エネルギーを貯蔵することができるため、太陽が照っていないときでも継続的に電力を生産することができます。
太陽熱貯蔵:
蓄熱能力を持つCSPプラントは、晴天時に余剰熱を蓄えることができるため、曇天時や夜間でも発電することができます。これにより、CSPは効率的で信頼性の高い再生可能エネルギー源と期待されています。
インパクト
再生可能エネルギーの多様化: スペインのCSPへの投資は、再生可能エネルギーを多様化させ、風力発電や太陽光発電(PV)技術への依存を減らしています。
エネルギー安全保障:
CSPの熱エネルギーを貯蔵する能力は、エネルギー安全保障と送電網の安定性を高めています。
温室効果ガスの削減:
スペインの集光型太陽光発電への取り組みは、二酸化炭素排出量の削減とクリーンなエネルギーミックスにつながり、スペインの気候変動目標に貢献しています。
参考URL 一例: ● https://csp-eranet.eu/new/spain-plans-increase-its-concentrated-solar-power-fleet-5-gw-2030 ● https://www.iea.org/reports/spain-2021 ● https://www.reuters.com/markets/commodities/spain-invest-69-bln-euros-renewables-green-hydrogen-energy-storage-2021-12-14/ ● https://www.mckinsey.com/capabilities/sustainability/our-insights/net-zero-spain-europes-decarbonization-hub
省エネ・節電・サステナブルなヒント
世界の事例に比べると、残念ながら日本はまだまだ課題が多いことがわかります。今回の都市のケーススタディにも関連する、個人でも取り組めるヒントと目標を掲げ、達成へむけて一歩先を行くヨーロッパ諸国のヒントをまとめました。
1. 効率的な照明:
たとえば従来の白熱電球をエネルギー効率の高いLED照明に替えることで、電力消費量を大幅に削減できます。デンマークのコペンハーゲンなどの都市の事例では、効率的な街灯によってエネルギー使用量が削減され、維持費も下がったことが明らかになっています。
2. 建物の断熱と設計:
適切な断熱を確保し、エネルギー効率の高い建物設計を採用することで、冷暖房エネルギー消費の大幅な削減につながります。オーストリアのウィーンのようなヨーロッパの都市では、厳しい建築エネルギー規制が統合され、エネルギー使用量の削減に貢献しています。
3. 再生可能エネルギーを取り入れる:
太陽光、風力、水力、地熱エネルギーに投資することで、二酸化炭素排出量を大幅に削減し、化石燃料への依存を減らすことができます。多くのヨーロッパ諸国は、個人や企業が再生可能エネルギーに投資することを奨励するために、補助金や奨励金を提供しています。
4. スマートグリッドとエネルギー管理システム:
スマートグリッドを導入することで、配電のリアルタイム監視と最適化が可能になり、より効率的な使用と無駄の削減につながります。イタリアの革新的なEnel Gridプロジェクトのケーススタディでは、スマートグリッドがいかに大幅なエネルギー節約をもたらしたかを紹介しています。
5. 公共交通機関とサイクリング・インフラ:
強固な公共交通網とサイクリング・インフラに投資することで、自家用車への依存を減らし、燃料消費量と二酸化炭素排出量の削減につなげることができます。オランダのアムステルダムでは、広範囲のサイクリングコースと効率的な公共交通システムでこれを実証しています。
おわりに
このように、ヨーロッパ諸国はサステナブルな社会の実現にむけ目覚ましいリーダーシップを発揮しています。
エネルギー消費と温室効果ガス排出を削減し、省エネをさらに推進しつつ経済成長もプラスにするために、私たちは何ができるでしょうか、、?
欧州を始めとする世界の成功事例や取り組みを知り、協力的な努力と革新的な解決策を通じて気候変動に対処していくことで、低炭素でエネルギー効率の高いサステナブルな未来の実現に近づくことができると信じています。