デザインスプリントと聞いたとき、皆さんはどんなことを思い浮かべますか。なんとなく楽しそう、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、実は5〜8時間ものあいだ立て続けに深く考え、問題解決を行っていく、かなりの労力を必要とするワークショップ。さて、そんな1日のはじめ。朝から参加するメンバー全員が、エネルギーをきちんとチャージできている状態で来てくれるかというと、そういうわけでもないですよね。デザインスプリントを成功させるコツは、メンバーにエネルギーを与えて、プロジェクトに集中できるよう、準備万端な状態へと導くことから。そしてこのために必要なのが、そう、アイスブレイクです!
アイスブレイクはチームビルディングを行うために、そしてメンバーがデザインスプリントに快く参加できる環境を作るために有効な方法です。一方で、「遊びみたいなことをして意味があるの?」と、この効果に疑問をお持ちの方も多くいらっしゃるかと思いますので、まずはアイスブレイクがデザインスプリントのはじめに必要な5つの理由をお伝えします。
5つの理由
1. Waking Up <目を覚まそう>
デザインスプリントといえば、朝早い!必ずしも朝から始まるわけではありませんが、多くの場合は朝から数時間続けて行います。ですから、デザインスプリントのメインとなるエクササイズへと入る前に、1日が始まったぞ!とフレッシュな気持ちになることが重要。そして、チームメンバーの結束力を上げておくことも重要ですよ。こうすることで、デザインスプリント中にきちんとメンバー同士が意見交換し、集中してエクササイズに取り組んでもらえます。
2. Team Building <チームビルディング>
スプリントチームの編成は、プロジェクトのケースによって異なります。クラアントとサービスプロバイダーから成る事もあれば、同じ組織、同じ部署のメンバーから成る事も。しかしほとんどの場合、チームには異なる分野の専門家が集められます。デザインスプリントの1日目がチームメンバーと初対面、なんて事も大いにあり得るので、この新しいチームメンバーで関係性を構築することはとても重要。アイスブレイクを行うことで、スプリント中に率直な意見を出し合い、実りのあるコミュニケーションをとれるようにします。
アイスブレイクを行うことで、スプリント中に率直な意見を出し合い、実りのあるコミュニケーションをとれるようにします。
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3. Warming Up the Mind <気持ちのウォームアップ>
デザインスプリントでは、5〜8時間もの間に渡ってアイデア創出を行い、深く考え、複雑なものごとにおける問題とソリューションを探求することになります。そんなワークショップの前に、ボーっとしているわけにはいきません!デザインスプリントのような、普段は行わない集中的なアイデア創出ワークショップを乗り切るには、気持ちを切り替える時間が必要ですよ。
4. Opening Up <心を開く>
どんなにファシリテーターたちのやる気があったとしても、参加するメンバーが同じようなモチベーションを持っているとは限りません。参加者の中には、「本当に意味あるの?」と懐疑心を抱いている方もいるかもしれません。それでも、アイスブレイクがあれば大丈夫。ここで参加者の気持ちをほぐし、デザインスプリントに対する疑いの気持ちを捨ててもらいましょう。暖かく迎えられているような気持ちを、アイスブレイクを通して持ってもらうことが重要です。
5. Putting Pen to Paper <実際に手を動かしてみる>
多くのスプリントのプロセスは実践型で、ペン、マーカー、ポストイットといった道具を使っていきます。参加者の中には、中学生以来ペンやマーカーを使う機会がなく、こうしたタイプのワークショップに馴染みがなかったり、心地よく思わない人もいるかもしれません。実際に手を動かしてもらうことで、デザインスプリントが始まった時、より効率的にエクササイズに取り組めるようにしましょう。
オススメしないアイスブレイク
さて、アイスブレイクが必要な理由がわかったところで、私たちのオススメのアイスブレイクを紹介していきます。世の中に存在する、あらゆるアイスブレイクが同様の効果を発揮するわけではありません。ディスカッションを促すものもありますが、物によってはあまりにも個人的なことを問われるので居心地が悪いと感じる人もいるかもしれません。参加者が極端に不快感を感じることなく(とはいえ、ある程度の居心地の悪さはスプリントのプロセスでは重要な要素の一つなのですが)スプリントに携われるようにするため、状況に応じて最適なアイスブレイクを選び出すことが重要です。
ニューロマジックでは、アイスブレイクを選ぶときの基準があります。欧米のビジネスでは効果的なものも、日本では少し攻撃的な感じがしてしまったり、心理的負担が大きすぎたりしてしまう事もあります。だからこそ、私たちはデザインスプリントを準備するとき、そしてデザインスプリントを実施する度に行うアイスブレイクを選ぶときには、最新の注意を払っています。まずは、私たちが(日本、海外どちらにおいても)オススメしないアイスブレイクをご紹介します。
Human Knot<人の結び目>
(そのほか、身体的接触を含むもの)

このアイスブレイクでは、グループメンバーで円を作り、向かい合わせの人と手を繋ぎます。皆が手を繋ぐと、円の中心に全員の腕が絡まりあった箇所が出来上がります。…この時点で既に奇妙な感じがしますが、それはさておき。次に、メンバーは繋いだ手を離さずに、この絡まりを解こうとします。…もうお分かりかと思いますが、ボディタッチが多すぎですよね。朝一番にこれをやると考えると、特にゾッとしてきます。メンバーがお互いのアイデアをシェアし合う前に、ましてやお互いの名前を知る前に、気まずい雰囲気を作り出すなんて!一番避けたい状況です。
Guess Who<誰だかわかるかな?>

このアイスブレイクでは、実施する前にファシリテーターの事前準備が必要になります。デザインスプリント実施前に、参加するメンバーのプライベートに関する情報を集めるため、サーベイを送信します。質問項目の中には、「出身地はどこですか」「高校では何のスポーツをしていましたか」やといった質問や、「自分自身について、おもしろいと思う事実を挙げてください」といった自由な形式の質問もあります。その後、デザインスプリント当日に、ファシリテーターがその回答を読み上げ、部屋の中にいるメンバーたちは誰が書いたものかを予測します。このアイスブレイクでは、ファシリテーターが準備のため追加で時間を確保しなければならないほか、メンバーが回答を当ててもらえなかった時に疎外感を覚えたり、間違えて指名された時に不快に感じてしまうことがあります。特に初対面の人もいるチーム編成のときは、このアイスブレイクによりメンバーの外見に基づいて判断することを促してしますことになりますので、ビジネスシーンとしては不適切です。デザインスプリントを開始する前にメンバーを傷つけてしまわないよう、そして不快感を感じさせないよう、このアイスブレイクは避けるか、工夫することが必要です。
オススメのアイスブレイク
さて、避けるべきアイスブレイクがわかったところで、私たちが実際に使用しているアイスブレイクを紹介します。私たちにとって重要なポイントは、文化的背景に左右されずに機能すると同時に、プロフェッショナルであること。そして面白くて、エネルギーが得られるものであることです。それでは実際に、私たちの2つのお気に入りアイスブレイクを紹介します。
Paper Tower<ペーパー・タワー>

日本語・英語を使用するファシリテーターとクライアントを持つ国際的なデザインファームである私たちにとって、言語や文化に関わらずに機能するアイスブレイクがベスト!そんなアイスブレイクの1つがペーパータワーです。このアイスブレイクでは、コミュニケーション、体を動かすこと、直感的な思考が必要になります。また、グループ対抗ですので、競争しながら仲間意識を持つこともできますよ。準備するものは次の通りです。
- A2(またはレターサイズ)用紙 20枚(1グループにつき)
- タイマー(もちろん、スマホでも大丈夫ですが、このタイマーがスプリントにはオススメですよ。)
- ペーパータワーを組み立てるスペース
このエクササイズでは、20枚の紙を各テーブル中央に置き、8分間チームでできる限り高い、紙のタワーを作ってもらいます。参加メンバーはテープ、ペン、ホチキス等、紙以外のものは使用できず、紙だけでタワーを作ることが条件です。ただし、紙をどう使うかはメンバーの自由。折るのもよし、巻くのもよし、丸めて乗せるのもよし、真っ平らにしたままでもよし。高いタワーを作れることができれば、なんでも構いません。8分経ったとき、一番高いペーパータワーを建てることができたチームが勝ちです。
このアイスブレイクは、チーム対抗で、時間制限があり、体が動かすことができるエクササイズなので、みるみる参加者の目を覚ますことができますよ。そして、ファシリテーターを務めるあなたにも楽しい経験になるはず。回数を重ねるごとに、今までになかった方法で試すチームが生まれてくるので、驚きの結果を毎回目にすることになるのです!
このアイスブレイクの良いところは、チームメンバーに目を覚ましてもらえるだけではありません。このエクササイズでは、なぜデザインスプリントが効果的なのかを目に見える形で実感できる、という利点もあるのです。限られた時間内で、チームと共に、何にも邪魔されず、集中して取り組むという行為を通して、単なる紙から完全に新しいものを作り出せたように、グループでユニークなソリューションを作り出せるということを明示できるのです。
Monster Creator<モンスター・クリエイター>

Monster Creatorはとても楽しいアイスブレイクで、デザインスプリントだけでなくワークショップでもよく使用されます。皆がつい笑ってしまうようなアクティビティで、チームワークをより一層強くし、クリエイティビティを促進する一方、労力は使わずセーブしておける、そんなアイスブレイクです。準備するものは以下の通りです。
- A2(またはレターサイズ)用紙 1グループにつき1枚
- タイマー
- 机の上のスペース
- 黒いマーカー(他の色でもOK)
このアイスブレイクでは、各チームでモンスターを生み出します!3分間で1人ずつモンスターの体の1パーツを描き、次の人へと回していきます。そして全員が描き終えたらさらに3分間とり、モンスターの名前と能力を決めてもらいます。最後に、各チームがモンスターの発表をして終わりです。モンスターを製品に見立てて(特におもちゃの会社であれば!)、プロダクトデザインスプリントについて説明することもできるので、このアイスブレイクはワークショップにも非常に効果的ですよ。
さて、アイスブレイクについてお読みいただきましたが、いかがでしたか?ありふれたもののように見えるかもしれませんが、アイスブレイクはあらゆるワークショップ、デザインスプリント関連のプロセスにおいて、とても重要なパート。スプリントメンバーに1日を始める準備をしてもらう、そしてメンバー同士が関係性を築き、仲間の信頼を深めるためには、こうした楽しいアイスブレイクが効果的です。より詳しくアイスブレイクについて知りたい、という方(私たちとアイスブレイクをやってみたい!という方も!)はこちらからセミナースケジュールを確認してみてくださいね。

岩田エレナ
デジタルコンテンツプロデューサー
アメリカ出身。メディアコミュニケーションの学士号を取得後、2019年ニューロマジックに新卒入社。現在は自社のSNS企画運営に加えて、サービスデザインに関する記事の執筆、インタビュー、撮影までをマルチにこなす。
