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UXディレクターとサービスデザイナーの類似点/相違点:UXディレクターについて(前編)

   

このドキュメントの制作背景

ニューロマジックのサービスデザイングループでは、デジタルプロダクトやデバイスにおけるソリューション提案およびプロダクト開発をけん引する存在として、サービスデザイナーと並走、協業する「UX(ユーザーエクスペリエンス)ディレクター」という役職を設定しました。

ニューロマジックでは、現在も主にWeb制作プロジェクトをけん引する「ディレクター」職が別グループに存在するのですが、ここで敢えて「UXディレクター」としたことの意図は主に2つあります。ひとつは「サービスデザイナー」と協業する「ディレクター」の傍から見た役割のわかりづらさの解消、そして、もうひとつは、その専門性の軸足がどこにあるのかを分かりやすくすることを意図しています。

「サービスデザイナー」と「UXディレクター」は専門領域が重複するところがあります。両者の違いや共通点についての認識を共有することで、社内における理解や業務の円滑な遂行、目指すべきところの明確化を企図してこのドキュメントを作成しています。

「UXディレクター」という呼称について

「UXディレクター」は、世間で一般的に言われる「UXデザイナー」と基本的にはほぼ同義のものとして考えていますが、「UXディレクター」の有するスキルにはスタイリング(いわゆるレイアウトデザイン)を含みません。他社においては「UXデザイナー」がスタイリングを担当するケースや、担当することを期待されるケースがあります。そのような誤解をさける意図から「ディレクター」の呼称を採用しています。

「UX=ユーザーインターフェースエクスペリエンス」ではない

まず、ありがちな「UX」への誤解を避けるため、「UX白書」を参考にしつつ意味を補足・補強しておきます。

ユーザエクスペリエンスの期間、用語、内在的なプロセスをまとめた図

UI/UXという表記が類推させる、UI(ユーザーインターフェース)の体験は、図の時間軸で表現されたUXにおいては「一時的UX」を指します。UXディレクターは、一時的なUIの体験に限らない包括的なUXへの取り組みが求められるものと考えます。

参考:

「UXデザイン」と「サービスデザイン」の違い

「UXデザイン」と「サービスデザイン」は、重複する対象領域と近しい技術を用いる、出自の異なる方法論です。担当領域を厳密に線引きする必要はないと考えますが、参考として両者の相違点と類似点についてここに触れておきます。

起源の違い

繰り返しになりますが、それぞれの起源がちがいます。「UXデザイン」はプロダクト/デバイスのユーザビリティ研究の延長で誕生し*1、「サービスデザイン」はマーケティング研究のなかで誕生したものです*2。

両者は出自の異なるが特徴の近似する学問分野間の関係のように見えます。たとえば、人文社会科学における文化人類学や社会学、心理学、宗教学、行動科学の関係のように、異なる場所、異なる始まり方をしたものが、目的や手法、プロセスに類似するところから、その方法論が相互に影響をあたえ合うような関係にあると考えます。

対象領域の違い

UXデザインはインターフェースに関わるさまざまな体験についてデザインするもので、サービスデザインはサービスの生態系全体をデザインします。一見、両者の領域は異なるように見えますが、実際のプロジェクトで解決すべき課題については多くの場合で重複することになります。

目的にかなう優れたUXデザインの実現のために非常に重要なのは、ユーザーとユーザーを取り囲む環境・文脈についての理解といえます。他方、 サービスデザインはプロダクトやデバイスがユーザーとのタッチポイントにかかわる場合、優れたUI/UXを検討するためのプロセスが自ずと必要となります。

ですから、両者は実践においては活躍するフィールドが重なり、技術的に補完しあう関係ととらえるのが建設的です。

決裁プロセスについての姿勢の類似

サービスデザインはクライアントとの「共創」を、その独自の特徴として説明されます。が、実はUXデザインにおいてもステークホルダーの決済をデザインのプロセスにどう巻き込んでいくかは非常に重要なトピックとして扱われてきました。

「共創」を必須のプロトコルとしたのは、デザイン思考の検討プロセスに決裁者を巻き込むための方便であり、サービスデザインの戦略的な試みといえます。UXデザインはサービスデザインのこの手法を参考とし、あるいは踏襲すべきでしょう。

明確な違いはソリューションがカバーする範囲

サービスデザインが扱う課題はプロダクト/デバイスとは全く関係がない場合があります。そういう意味ではサービスデザインはUXデザインより広い範囲のソリューションを扱います。

一方で、システム(あるいはWeb)のUIデザインは、それ単体として独自の専門性を持つUXデザインの領域といえそうです。サービスデザイン単体としては深くは踏み込みがたい、この特別なソリューションの専門性にUXディレクターはかかわります。

UXディレクターが向き合う2つの領域のソリューション

前掲の「UX白書」では、「ユーザーエクスペリエンスに影響する要素」を次の3つとしています。

  1. 文脈
  2. ユーザー
  3. システム

ここでは、UXディレクターが向き合う知見や手法の専門性を説明するために、この3つの要素を、便宜的に2つの領域にまとめなおします*3。

より具体的には、「ユーザー」を「ユニークな特徴を持った個人」/「人間の認知の特徴」の2つに分割します。そして、それぞれを「文脈」「システム」とセットで捉えなおします。

次のようなかたちです。

  • A 「ユニークな特徴を持った個人」×「文脈」
  • B 「人間の認知の特徴」 ×「システム」

サービスデザイナーの活動は前者 A の実社会におけるあり様を明らかにした上でのソリューション提供が主軸となりますが、UXディレクターがソリューションとして提供するプロダクト/デバイスの構築のためには、A/B の両方にまたがった知見と手法が必要となります。そして、WebデザイナーあるいはUIデザイナーはこのBを主戦場としているといえます。

UXディレクター、UIデザイナーとサービスデザイナーの関係を示す図

では、それぞれどのようなものなのか。

A 「ユニークな特徴を持った個人」×「文脈」に関わるソリューション

ユーザー個人の個性や社会的背景に紐づいたソリューション。その人は何者で、どのような人々とどのような関係にあり、いまどんな思いで何を求めているのか。

様々な文脈を踏まえた表現による訴求、属人性が鍵となります。

クレイトン・クリステンセンによるジョブ理論(Jobs To Be Done)のミルクシェイクやマットレスの売り上げ改善のための調査の例話は、購買決定要因となるユーザーの行動が実社会に生きる人物の文脈から切り離せないものである可能性が高いこと、因果関係について仮説をたてて突き止めることの重要性、それを踏まえたソリューションのインパクトの大きさを教えてくれます。

キーワード

  • 文化人類学/社会学/歴史学/考古学
  • 文脈への想像力や共感、おもてなしの心
  • 歴史的経緯が前提となる表現
  • 様式美、アナロジー、インスパイア、オマージュ、パロディ
  • ゴールデンサークル
  • ミッション/ビジョン/バリュー
  • ペルソナ
  • Jobs To Be Done
  • ジャーニーマップ/ステークホルダーマップ
  • サービスブループリント
  • コンテンツのRelevance(関連性)・Utility(実用性)・Entertainment(娯楽性)
  • 情緒的コピー
  • コンテクストデザイン

B 「人間の認知の特徴」 ×「システム」に関わるソリューション

ユーザー個人の個性や社会的な背景にはあまり紐づかない、より普遍的な認知の課題に配慮するソリューション

即時の使いやすさや快適さ、一般性が鍵となります。

時として、カスタマージャーニーマップはWebサイトの構造設計の役に立ちませんが、これは情報設計やUIデザインの領域の問題がユーザーの文脈や属性に関わらない場合があるからです。

デバイス/インターフェースは、ユーザーとシステム(あるいはWeb)が出会う界面ですので、これをデザインすることは、それぞれの都合に配慮する必要があります。つまり、システムの在り様への理解と同時に、人間の側の認知特性への理解が必要とされることになります。このような意味では、UIデザインは、いまだ解明されたといいがたい認知科学パラダイムにおける人間の理解と解明に、現代的な実践としてアプローチするものといえそうです。

キーワード

  • 人間工学/認知科学/脳科学/行動経済学
  • 先天的な美的感受性(悟性、花はなぜ美しいのか)、黄金律、崇高と美
  • 慣習(文化的制約)と一貫性、メタファ、イディオム
  • アフォーダンス/シグニファイア
  • ファインダビリティ
  • スキャナビリティ
  • ユーザーフロー
  • インフォメーションアーキテクチャ
  • OOUI
  • インタラクションデザイン
  • モーションデザイン
  • セキュリティ
  • ユーザビリティ
  • アクセシビリティ
  • パフォーマンス
  • メトリクス
  • ネットワーク/サーバー
  • フロントエンド・エンジニアリング
  • バックエンド・エンジニアリング

*1:安藤昌也「UXデザインの教科書」(2016)によれば、システムの使いやすいものにするためのデザインプロセスを規定するものとして1999年に制定された国際標準規格 IS013407(インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)に「UX」の原型が由来するが、この時点ではまだ概念として明確に規定されておらず、これが2010年にIS09241-210に改訂された際に”User Experience”として明確に導入・制定されたとされる。

*2:Lynn Shostack, G.(1982) “How to Design a Service”, European Journal of Marketing など。

*3:この分割の仕方は便宜的なもので、一種の理念型です。厳密には分割できないものを含んでおり、実際の体験の場においては同時に現象しているはずですが、技術的な専門性とソリューションの関係を理解しやすくすることを狙っています。

後編へ続く

飯川光明

UXディレクター
サービスデザインを通した課題解決の手段がデジタルプラットフォームであった場合の、UI/UX視点の手法導入、プロジェクトのプロセス提案とディレクションを担当。

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