「運べない」は物流の問題ではない。紅海リスクが問い直すScope3と調達の前提

紅海周辺で船の運航が不安定になっている状況は、一見すると「物流の問題」に見えます。

船が遅れる。輸送費が上がる。在庫計画を見直す必要が出てくる。こうした影響は、まず物流や調達の現場に現れます。

ただ、その影響の広がり方を見ると、もう少し違う捉え方もできそうです。
これは単なる輸送ルートの変更ではなく、企業の調達構造、Scope3算定、サプライチェーンリスク管理の前提が揺らぎ始めているサインなのかもしれません。

本稿では、紅海リスクをきっかけに、Scope3と調達をどのように接続して捉えるべきかを整理します。

物流の問題から構造の問題へ

紅海周辺での船舶攻撃や安全上の懸念を受け、スエズ運河を通るルートを避け、アフリカ南端の喜望峰を回る船舶が増えています。その結果、リードタイムの延長、輸送コストの上昇、在庫戦略の見直しといった影響が、サプライチェーンの現場に現れています。

一方で、この影響は物流部門だけに閉じるものではなさそうです。調達判断、在庫設計、Scope3排出量、ESG開示、投資家や顧客への説明。それぞれの前提が、同時に見直しを迫られているとも考えられます。

たとえば、リードタイムの不確実性が高まると、在庫を極力持たないJust-in-Time型の調達モデルは維持しづらくなります。バッファを持たないことの合理性が、そのまま脆弱性として現れる可能性があります。

また、「なぜこのサプライヤーなのか」「なぜこの輸送ルートなのか」「なぜこの在庫水準なのか」といった意思決定の根拠が問われる場面も増えていくかもしれません。

これまでオペレーションとして扱われていた領域が、経営や開示における説明責任の対象へと広がりつつある。紅海リスクは、その変化を見えやすくしている事象の一つとも言えそうです。

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Scope3の前提は、固定されたものではなくなっている

喜望峰経由への迂回は、輸送距離を大きく延ばします。つまり、同じ製品を同じサプライヤーから調達していたとしても、輸送ルートが変われば、Scope3排出量の前提も変わることになります。

従来のScope3算定では、平均値や排出係数をベースに、年次で全体像を把握する方法が一般的でした。もちろん、こうした算定は今後も重要です。ただ、現実のサプライチェーンは常に動いています。輸送ルートの変更、調達先の見直し、輸送手段の変更、在庫方針の変更によって、排出量の前提は変わります。

特に影響が現れやすいのは、購入した製品・サービスに関するカテゴリ1、上流の輸送・配送に関するカテゴリ4、下流の輸送・配送に関するカテゴリ9といった領域です。

Scope3は「年に一度計算するもの」から、サプライチェーンの変化とあわせて見直していく対象へと位置づけが変わりつつあるのかもしれません。

大切なのは、数値を細かくすることだけではありません。どの前提が変わったときに、排出量やリスク認識を見直すのか。その判断軸を持っておくことが、開示の質にもつながっていくのではないでしょうか。

調達基準とESG開示は、つながっているか

調達の意思決定は、これまで主に「コスト・品質・納期」で整理されてきました。そこに、地政学リスク、供給の安定性、環境負荷、Scope3、人権、コンプライアンスといった要素が加わりつつあります。

ただ、開示上ではサプライチェーンリスクや気候変動リスクが丁寧に語られている一方で、実際の調達基準や意思決定ロジックとの接続が見えにくいケースもあります。

「リスクを認識している」と書かれていても、その認識が調達判断にどう反映されているのか。
「Scope3削減に取り組む」と書かれていても、サプライヤー選定や輸送ルートの見直しとどうつながっているのか。

この接続が見えない場合、取り組み自体は存在していても、外部からは十分に評価されにくいことがあります。

投資家や顧客が見ているのは、リスクそのものだけではありません。どのような構造で意思決定が行われているのか。どのような基準で調達を設計し、排出量を捉え、なぜその判断に至ったのか。この一連のロジックが見えないと、「整えているのに指摘される」「やっているのに伝わらない」というズレが生まれやすくなります。

個別の取り組みが足りないというより、構造・運用・開示が一本の線でつながっていない。そうした状態が、外から見えにくさとして現れているのかもしれません。

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自社の調達とScope3は、どこまで接続されているか

まず確認したいのは、輸送ルートや調達条件の変化が、Scope3算定や調達判断にどこまで反映されているかです。リードタイムやコストの変化だけでなく、排出量や供給安定性への影響まで含めて見直せているか。さらに、その判断の根拠をESG開示や外部説明の中で伝えられる状態になっているか。

こうした問いは、すぐに大きな仕組みを作るためのものではありません。まずは、調達・物流・サステナビリティ・経営企画のあいだで、同じ前提を共有するための入り口になります。

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