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サービスデザインで創るサステナブルなビジネス

   

世界でもサービスデザインに特化したエージェンシーは数多くない。そんな中、オランダから世界に存在感を示しているサービスデザインエージェンシーが「Koos」だ。Koosはさまざまな分野のクライアントとともに、サービスデザインの手法でコラボレーティブな問題解決を行なっている。ここ数年KoosではSustainable Service Designと名付け、より環境にポジティブなインパクトを与えることを目的としたサービスデザインの手法を展開している。このSustainable Service Designについて、社内でリードしているというシニアサービスデザインコンサルタント Joost van Leeuwen氏、サービスデザインコンサルタント Michaël Vijfvinkel氏に話を伺った。

全ては社内の内発的動機から始まった

Koosのサステナビリティに対する働きかけは内部から始まったという。もともとはMichaëlを中心としたメンバーがKoosのカーボンフットプリントを減らすために、自らの手で活動をしていたのが始まりで、とにかく最初は手を動かし、わからないながらに試してみたという。Michaëlは「社内のメンバーはみな環境問題に関心を持っていて、取り組みを始めたのはごく自然のことでした。Koosとして、どうすればより環境への負荷を減らすことができるだろうか、と皆考えていたのです」と語る。数年の挑戦ののち現在では戦略を立て、Climate Neutral Certified(カーボンフットプリントが±0の状態を実現していることに対する認定)への登録を目指しているという。

このようにとにかくチャレンジし、取り組んでいく中で繰り返しプロセスを改善させていこうとする姿勢はデザイン思考と重なっている。「最初は特にツールを使ったり、デザインプロセスを使っていたわけではありません。その代わりに私たちが使っていたのはデザインのマインドセットです。何度も繰り返し試し、改善を加えていきました」。デザイン思考では、問題定義と解決方法の創出、検証を繰り返し行う。このように完璧を形を求めるのでなく、繰り返し改善していく姿勢がサステナビリティを考える上でも欠かせないということだろう。

サステナビリティとは何を意味するのか

When we say “sustainability”,
the first thing we say is, “what does that mean?”.

ー Michaël Vijfvinkel , Service design consultant at Koos Service Design

サステナビリティと一言に言えど、人によってその認識の仕方は異なる。また、その曖昧さがゆえに何に取り組むべきなのかわからないという方も多いはずだ。そんな中、KoosはSustainable Service Designを3つのアプローチに分けて説明している。

  1. サステナブルな行動のデザイン [Designing sustainable behaviour] :
    ユーザーのニーズに合った、サステナブルなプロダクト、サービスをデザインする
  2. サーキュラー*1 なサービスのデザイン [Designing circular services] : 
    プロダクト中心からサービス起点の企業への転換、もしくはサステナブルなプロダクトやサービスの提供方法の開発により、サステナブルなビジネスモデルを開発する
  3. レジリエントなシステムのデザイン [Designing resilient systems]:
    あらゆるステークホルダーを巻き込み、適応力や回復力のあるサステナブルなエコシステムを生み出す

サステナブルな世界へと変えていくために「まずはサステナビリティが何を意味するのかを明確にしなければならなかった」とMichaëlは語る。「サステナビリティと一言に言っても、人によって異なる定義を持っている場合があります。ですから、KoosがSustainable Service Designという言葉を持って何を意味するのかの定義付けが必要だったのです。ここでは、Koosがサービスデザイナーとしてインパクトを与えることのできる箇所を明示することにしました。こうしたアプローチを示すことで、クライアントとの会話はもちろん、社内でのコミュニケーションも断然わかりやすくなります」。

複雑なシステムを可視化する

サーキュラーなサービスのデザイン [Designing circlar services]の例として、LaaS(Light as a Service)でも知られるグローバルヘルステック企業、PhilipsとのプロジェクトについてMichaëlは語る。「今、世界中でプロダクト中心からサービスを起点としたビジネスモデルの転換が起きています。Philipsもそうした中の一社で、サーキュラーなシステムを作り、マテリアルのサイクル*2を閉じたいと考えていました」。

こうしたプロジェクトでは、マテリアルの流れを把握し、サービスのシステム全体を考えなければならないため、ジャーニーマップやサービスブループリントといったサービスデザインのツールが有効である。「このプロジェクトでは、サービスブループリントを使って環境への負荷が生じている箇所を把握しました。サプライヤーとサプライチェーンを可視化することは、環境にポジティブなインパクトを与えるソリューションを考える上で、必要不可欠なプロセスです」。

また、レジリエントなシステムのデザイン [Designing resilient systems] に分類されるようなプロジェクトでは、多くのステークホルダーが関連するため、認識の一致を都度確認するのが欠かせない。そこでKoosはカスタマージャーニーマップやサービスブループリントを参考に、新たなツール「Process Journey」を開発した。「Process Journeyはカスタマージャーニーとサービスブループリントの間のようなもので、複数のステークホルダーによるプロセスを可視化するものです」とJoostは語る。

▲ Koosのプロセスジャーニー

オランダの自治区Apeldoornにおける公共スペースのマテリアルを管理し、繰り返し使うことのできるサーキュラーなシステムをつくるというプロジェクトでは、実際にこのProcess Journeyを使用し「それぞれステークホルダーのプロセスを適応させ、1つの流れを作り出し、可視化することで、ステークホルダー全員の認識を一致」させることができたと言う。

「このようにして、全員が同じ認識を持つことが、サステナブルなインパクトを生むには欠かせません。これがサステナビリティのための最初の一歩です」。

サービスデザイナーの共感力とファシリテーション力が活きる

レジリエントなシステムをデザインするということは、非常に多くのステークホルダーが関わる、複雑な問題を解決していくということである。こうした問題解決において、JoostとMichaëlはサービスデザイナーのスキルが活きると主張する。

サービスデザイナーは、複雑なシステムに関わるステークホルダーをファシリテートするのに非常に優れています。サービスデザイナーには、ステークホルダーに耳を傾け、ニーズを汲み取るという共感力があります」。共感はデザイン思考でも重要なステップの1つであり、通常はプロダクトやサービス開発の際、ユーザーに共感するという意味で捉えられている。一方、サステナブルな仕組みを作っていく際には、ステークホルダーへの共感こそが大事であるということだ。

▲ ステークホルダーとのセッションの様子

「サービスデザイナーは、1つの分野にものすごく長けるのではなく、最低限の知識を幅広く分野に対して持っていることで、ステークホルダーとの共通言語を作りながら問題に取り組んでいくことができます。あえて1つの分野のエキスパートという立場で入らないことにより、ステークホルダーや状況を包括的に捉え、ファシリテートしていくことができるのです」。

サステナビリティという観点をビジネスにインストールする

サーキュラーエコノミーで世界をリードしているオランダだが、現状ビジネスでは経済的側面に注目し、環境的、社会的なサステナビリティが高いプライオリティにならないケースも多いという。そんな中、Koosは最初からサステナブルなサービスやシステムをデザインしたいというクライアントに向けてだけでなく、あらゆるプロジェクトにおいて環境的、社会的なサステナビリティの観点を組み込むことを目指している。「いつも自分たちに『どうすればKoosはサステナビリティの観点を組み込むことができるだろうか』と問いかけています。まずは少しずつ、クライアントにサステナビリティについて考えるきっかけを与えることが重要です」。

プロジェクトの中にあるオポチュニティを見つけ出し、少しずつタネを撒くことから始めるのが重要ということだ。実際にこうした小さな取り組みから、クライアントがサステナビリティの観点を中心としたアイデアを選ぶこともあるという。

▲ アイディエーションセッションでサステナブルなアイデアを言及することも1つの方法

また、Michaëlはこう加える。「サステナブルなソリューションは、収益性がきちんと立てられる物でなければなりません。結局のところ、ビジネスは当然利益がないと成り立ちませんから、経済的な利益がなければ意味がありません。デザインのプロセスでも、必ずどれくらいのインパクトを生み出せるかを計測することはもちろん、どのようにして収益化できるかまで考えます」。実際にKoosではビジネスの可能性を示すために、ユーザーのニーズを定量化している。Joostはオランダのフードビバレッジの会社のプロジェクトで、マテリアルのループを閉じる、サーキュラーサービスのコンセプトをデザインしたときのプロセスを振り返り、こう語る。「プロセス全体を通して、社内のステークホルダーから顧客までがどんなニーズを持っているかを全て洗い出しました。定量データを使って、人々のサステナビリティに対する異なるニーズを明らかにしたのです。意欲別にグループに分け、それぞれがどれくらいの規模で存在するかを示すことで、ビジネスの可能性を示しました」。

It needs to be a profitable sustainable business model. The solution has to be 1. sustainable, 2. profitable and 3. require little effort.

ー Michaël Vijfvinkel , Service design consultant at Koos Service Design

カギは小さく始めること

環境問題に対処すべきというその緊急性は明らかだが、どう対処すべきかが問うべき問いだ。Joostは、「仮説を立て、スプリントを回す、そして、アイデアに対する顧客の声を聞き、検証する」ことが大事だと言う。実際に顧客のニーズがあることを示し、ビジネスの可能性を示すことで、少しずつ世界のシステムを変えていくことができるのだ。「今はリスクがあるように思えるかもしれませんが、近い将来にはもはやリスクではなくなります。これが世界が向かっている方向ですから。まずは小さく始めることで、この流れへと向かっていくことがカギです」。

The urge is clear. But “how” is the problem.
Start small. Service Design can help that.

ー Joost van Leeuwen, Senior service design consultant at Koos Service Design

まとめ

Koosのサステナビリティへの取り組みには、サービスデザイナーだけでなく、サステナビリティに挑戦するあらゆる人の参考になるはずだ。ぜひ、何か取り組みを始めたい、という方は以下のポイントを参考にしていただきたい。

  • 言葉の定義をつくり、共通認識を作る:サステナビリティという言葉は曖昧さをもつため、その言葉をもって何を意味しているのか、何を目指そうとしているのかをステークホルダー間でまず明らかにする
  • サービスデザインがサステナビリティを加速させる:サービスデザイナーの共感力、そしてファシリテーション力が複雑なシステムを読み解き、ソリューションを創出するのに貢献する
  • 小さく、できるところから:サステナブルなサービスやシステムを作ることが第一目的でなくても、小さなきっかけからサステナビリティの観点を組み込むことができる

この記事を読んで一緒に議論したい、考えを共有したい、とお思いになった方はぜひNeuromagicのお問い合わせフォーム、もしくは筆者のLinkedInよりお気軽にご連絡ください。一緒にサステナブルな社会を描いていきたい、という方からのご連絡お待ちしています!


注釈:

  1. サーキュラーエコノミー(循環型経済)
    これまでの一般的な「Take, make, waste(資源を採掘し、製造し、廃棄する)」という流れが象徴する「リニアエコノミー(直線的経済)」に対し、再生可能なデザインにより、成長と有限な資源の消費を徐々に切り離すことを目的としている経済モデルのこと。
  2. サーキュラーエコノミーでは資源を使用するものの、使い切られるということはなく、製品、部品、材料の使用時やライフサイクル終了後に適切な戦略をとることで、資源をシステム(サイクル、ループ)内に留めておく。

    参考:Ellen McArthur Foundation

石田智絵

アソシエイト・サービスデザイナー
BBA取得後顧客中心の視点に関心を持ち、サービスデザイナーとして入社。ワークショップを中心に多業界のサービスデザインプロジェクトに携わる。経済的、社会的、環境的にサステナブルな世界のためのデザインの探究にも熱心。

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