Jonathan Courtneyへのインタビュー後編では、AJ&Smartがデザインスプリントからワークショップへと事業を転換*1した理由、彼の著書『The Workshopper Playbook*2』にあった背景、そしてビジネス界におけるワークショップの未来について詳しく伺います。
まだJonathanへのインタビュー前編をご覧になっていない方は、こちらよりご覧いただけます。Jonathanがデザインスプリントを始めたきっかけや、デザインスプリントの価値の伝え方、優れたファシリテーターとは何かについて語っています。
目次

『The Workshopper Playbook』ができるまで
Neuromagic:『The Workshopper Playbook』に取りかかり始めてから、どれくらいになるのでしょうか?
Jonathan:プロジェクトとしてきちんと取りかかり始めたのは、ちょうど1月末だったと思います。ですから、本を出すと最初に決めてから約6週間で完成させたということになりますね。
Neuromagic:本を出すアイデアは、たった数ヶ月前に考えついたということですか?
Jonathan:正直言うと、ものすごい勢いで書き上げたんですよ。この本の内容は私たちが過去3年間社内でやってきたもので、ただ公開していなかっただけなんです。ですから比較的書くのは簡単でした。1番難しかったのは、どうやって本は出来上がるんだ?とか、そういった点を理解することでしたね。
なぜいま、「ワークショップ」に改めて注目するのか
Neuromagic:AJ&Smartはなぜデザインスプリントからワークショップへと事業を転換したのでしょうか?
Jonathan:2016年から、クライアントからデザインスプリントを細かく分割するように依頼されてきました。LDJ(Lightning Decision Jam)ワークショップもそうして生まれたものの例の1つで、3年ほど前に考え出したものです。他の例を挙げると、前回東京に訪問した際LEGO本社にてCレベルのチームに問題解決ワークショップをしたことがありました。このワークショップは完全にカスタマイズされたもので、クライアントのニーズに基づいた、デザインスプリントとは全く異なるものです。AJ&Smartではこうしたことを行ってきたという背景があったのですが、特に意識せず行っていたので、何かはっきりした1つのメッセージを持っておきたかったんですよね。それで去年の夏に、チームでこんなことを思いついたのです。「デザインスプリントを広めるのはいいけど、多くの企業はデザインスプリントができるような時間の余裕や企業文化を持っていない。でも彼らにデザインスプリントのようなワークショップがどんなものなのか、そしてワークショップのベネフィットを感じることのできる経験をさせるのは良いこと。実は今、私たちはワークショップを人々に広めるのに、1番良いポジションにいるのではないだろうか。」
私たちが気づいたのは、デザインスプリントは「デザイン」スプリントと呼ばれている、すなわちデザインに注目しているので、多くの人を自然と遠ざけてしまっているということ。一方ワークショップだと、本にも「問題解決と意思決定のエキスパートになる方法」と書いた通りですが、デザインという言葉に縛られません。私は単にデザインスプリントを実行できる人よりも、ワークショップを実行できる人になる方が遥かに将来性があると思ったのです。
この本を作るにあたっても、独自でカスタマイズしたワークショップで意思決定をしました。本を制作するアイデアを出してから、印刷して、リリースして、という全ての流れを4週間でできたのは、このカスタマイズのワークショップがあったから。3年前の自分たちでは丸々1年はかかったでしょうけどね。
Neuromagic:それが1番驚くべきことですよね。4週間という短い期間で1冊本を完成することができたということは、きちんとそのノウハウを持っているという証拠ですよね。
Jonathan:そうですね。自分でもちょっとおかしいのではないかと思ってしまうくらい。それに何がすごいって、AJ&Smartではその都度ワークショップをするために、メンバーやクライアントを説得する必要がないということ。一度一緒に仕事をしてこういう手法を見せると、誰も説得する必要などなく、むしろクライアントからやってほしいと声が上がるくらい。もう元のやり方には戻りたくなくなるんです。一方デザインスプリントは大きな投資でもあるので、クライアントを説得させなければなりません。
Neuromagic:日本の働く文化はもっと伝統的なので、クライアントにデザインスプリントの価値を理解してもらうのはニューロマジックが日本で苦戦していることでもあります。デザインスプリントが実際に良い結果をもたらすとクライアントに納得させるのは大変ですよね。
Jonathan:わかります。問題は「デザインスプリント」という名前がついているからだと思いますけどね。それに、デザイン思考やポストイットはただ単に遊んでいるようにしか見えないからかな。これが『the Workshopper Playbook』でデザインについて話すのをやめて、「ワークショップをする」ことのビジネス価値に焦点を当てている理由でもあります。
ワークショップとデザインスプリントの未来
Neuromagic:ワークショップ、デザインスプリントやデザインの観点から、急速に変化しているビジネス環境にどのように対応していくべきだとお考えですか?
Jonathan:特に今のように、複雑な経済となっていく中で最も重要なのは、不変的な基礎のコアスキルを持つことだと思います。ワークショップは変わっていきますけどね。食品に例えて言えば、レシピは変わっていきますが、何かを調理する方法の核心をきちんと理解していれば、常に新しいものを生み出し続けることができますし、それを使っていくことができますよね。ワークショップも同じです。
個々のパワーを引き出すことのできる存在になるということは、同時に
ビジネスの収益とその背後にあるあらゆるものも改善しているということ。
– AJ&Smart CEO Jonathan Courtney
個々のパワーを(ワークショップで)引き出すことのできる存在になるということは、同時にビジネスの収益とその背後にあるあらゆるものも改善しているということでもあります。ですからデザインスプリントとか、デザイン思考とか、LDJ(Lightning Decision Jam)をするということ自体は重要ではなくて、ワークショップは仕事の忙しさを解消し、問題を素早く解決し、意思決定を早くすることを可能にするものだということが重要なのです。私たちAJ&Smartがこれを主張し続け、他の会社も主張するようになれば、単にミーティングルームに行って話し合いを行うのではなく、ポストイットを取り出し始めるような光景が普通になると思います。こういうことをする人が一般的になり、デザイナーとして見られないようになるのです。
専門がマーケティングとか、デザインとか。そういうことはもう関係なくなるというような感じです。私たちが関わろうとしているのは、ミーティングが成り立っていない、コラボレーションが根本的に崩れてしまっているところ。優れたアジャイルシステムがあるとか、こういう問題に対処する優れたテクノロジーがあるとか、そういうことは関係ありません。
Neuromagic: 最後に、ワークショップの今後の可能性についてどう思いますか。
ワークショッパー(Workshopper)は特別で、
キラキラしたような役割ではない。
まだ企業が持っていないというだけの、非常に基本的な役割だ。
– AJ&Smart CEO Jonathan Courtney
Jonathan:今、改めて自分のやっている仕事について考えてみているのですが、30年前まで時が戻ったとしても、今との繋がりが見えますね。言っていること、わかるでしょうか。他の仕事にはなかなか当てはまらないことだと思うのですが、30年前の状況を考えても、人々が問題を解決し、意思決定をする必要に迫られていて、これを早くできる方法があればそれを評価するような、そんな光景が見えるんです。要するに伝えたいのは、ワークショッパー(Workshopper)は特別で、キラキラしたような役割ではなく、まだ企業が持っていない非常に基本的な役割であるということ。プロジェクトマネジャーやアジャイルコーチなどが掛け合わさったような、そんな役割です。私たちは、これこそが今の企業が欠いている存在であり、今後その需要は高くなっていくと強く信じています。
今回のブログでは、AJ&Smart CEO、Jonathan Courtneyへのインタビュー後編をお届けしました。
まとめ
- 「デザイン」という言葉が人を突き放してしまうこともある。特にデザインスプリントでは、デザインはデザイナーのためだけのものではないことを示すことが必要。
- チームを団結させ、個々の力を発揮させることのできるスキルは、いつだって価値がある。
- ワークショップはみんなのためのもの。多種多様な業界や状況で使うことができる。
- ミーティングは根本的に成り立っていないことが多い。ワークショップは、ミーティングを価値あるものにするのに役立つ。
今後もデザインスプリントやサービスデザインに関するブログを公開していきますので、是非お楽しみに!デザインスプリントやワークショップの実施のコツや、クライアントにそれらの価値を理解してもらうコツについては 前編をご覧ください。
*1 AJ&Smartは2019年末にWorkshopperのためのサイト「Workshopper」をローンチ。以前はデザインスプリントを前面に押し出していたが、現在はワークショップそのものについても言及している。
*2『the Workshopper Playbook』はAJ&Smartが独自で刊行。ワークショップのコツをまとめている。「Workshopper」はAJ&Smartが独自に生み出した言葉。

岩田エレナ
デジタルコンテンツプロデューサー
アメリカ出身。メディアコミュニケーションの学士号を取得後、2019年ニューロマジックに新卒入社。現在は自社のSNS企画運営に加えて、サービスデザインに関する記事の執筆、インタビュー、撮影までをマルチにこなす。
