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「”共創”とサステナビリティ」〜欧州大手企業のビジネスモデルと取り組み〜

   

「サステナビリティ」や「SDGs」というワードを当たり前に聞くようになった近年。企業活動が社会に与える影響は益々大きくなり、環境や次世代に対する社会的な責任(CSR)に取り組んだ経営が求められています。

オランダは欧州の中でもサステナブルな社会の実現のために積極的に取り組み、先進国としても知られています。そんなオランダ、アムステルダムでデニムに関連する企業やプロジェクトを支援する財団「House of Denim」財団を創設、2021年には『Collaborate or Die』(共創のためのチェンジメーカー・ハンドブック)を執筆し、現在ブランドや政府、NGOのアドバイザーでもあるジェームス・フェーンホフ氏と、1994年に創業、DX・SX推進、サービスデザイン、WEBインテグレーションなどを駆使して「ふさわしい体験の創造」を紡ぐ東京のニューロマジックのSXグループリーダー、ベッティーナ・メレンデス氏がサステナビリティに取り組む際の「共創」、そのための「デザイン思考」の重要性や、持続可能なビジネスモデルを構築する具体的な方法について語りました。

※ 語り手:ジェームス・フェーンホフ氏 / 聞き手:ベッティーナ・メレンデス氏

「共創、そしてデザイン思考でポジティブなインパクトを」


持続可能な社会を実現するためには、個人や一企業の力には限界があり、「共創」が必要不可欠です。その共創に必要な”デザイン思考”とはなんでしょうか?

”デザイン思考”は現象に対してのリサーチから始まり、「どのように私たちはできそうか」から始まる明確なクエスチョンを策定します。これはとてもポジティブで、デザイン思考を体現している問いです。“もし”や”できるか”ではなく「どのように」そして「できそうか」は非常に楽観的でクリエイティブ、前向きです。“しないといけない”とか“する”ではないんですね。

「私たちは」というところも、当事者意識を醸成します。

その上で、課題の解決策をできる限りたくさんあげていく。その中から最適なものに絞り、解決策を体系的に追求し、ベストなものを選びだしてプロトタイプを作成し、フィードバックを得て改善する。これを繰り返すことで最短かつ最良の改善策を求め、磨いていく。それが”デザイン思考”です。

「どんな課題もそれを作り出したのと同じ考え方では解決できない」


デザイン思考はまず想定される解決策をたくさん考え、その後収束させていくものです。そのためには、「周りに合わせず好奇心を持って、さまざまな可能性を考える」「リスクを冒す意志と責任」が伴います。まさに、アインシュタインの言葉「どんな課題もそれを作り出したのと同じ考え方では解決できない」の通りです。つまり今ある課題や問題を解決するためには現状の枠を飛び出す必要がある、ということ。日本企業は組織が階層的で構造化されている印象がありますが、アムステルダムはオープンかつ、自由と平等が根付いている社会です。転換期である今、日本に限らず、世界全体に新しい思考、新しいリーダーシップが求められているのではないでしょうか。

「ものごとを変える3つの力」


著書の『Collaborate or Die』にもあるように、様々な視点や可能性から「考える」だけでなく様々な視点からの「指示や勢い」があって初めて、ものごとを変えられると思っています。

変革には3つの要素が必要です。1つ目は斬新な発想と戦略、2つ目は共通の目的を持って活動するチームや集団。そして3つ目が「ある特定の課題の一部に取り組むための特殊な連携」です。

「共創に成功した欧州の事例のひとつ、ハイネケン」


誰もが知っている「ハイネケン」は1873年にオランダで創業、世界中にビール醸造所とブランド力を持つ家族経営の会社で、マーケティングや広告の分野でもフロントランナーです。大企業は、大きなインパクトを与えられる立場にあります。これまでにハッスル・カルチャー(人々が昼夜問わず常に働かされライフバランスが取れない状態)をなくそうというキャンペーンや、2030年までに大麦とホップを100%再生 持続可能な資源から調達する目標も掲げていて、話題になっています。サステナビリティというとSDGsの話もよく出てきますが、多くの組織がどう取り組むべきか、どこから手をつけるか迷いを感じています。それはハイネケンも同じでした。

SDGsの17の目標が何を指しているのかは理解できても、それらは国連によって世界レベルで主に国、あるいは人々のために策定されたもので、「企業の行動指針」としては策定されていません。なので具体的なアクションを起こそう、となったときに、例えば17の目標から一つに絞るべきか全部選ぶべきか?どこから何を、どのくらいの規模ですべきか、そもそもできるのか?・・迷って当然、とも言えます。

ハイネケンの話に戻ると、彼らはまず前提として、革新と持続可能性、そして責任ある飲酒を提唱しています。最近では各地域で原料を再生可能&持続可能なものにしようと取り組んでいます。またカーボンの頭文字を取った「Drop the C」というCO2排出量の削減や、水資源の保護に向けたプロジェクトも行なっています。それにはまず、世界中にいる7万人の従業員に情報を提供し、インスピレーションを与え、チームとして企業として変革への関わり方を理解してもらわなければなりません。そして、SDGsの一つの側面としては企業および社会的責任の「報告」もしなければなりません。社内、社外、誰もがどう協力し進めていくかを可視化することがまずその一歩となります。

「ハイネケンへの具体的な提案と実績」


そこでハイネケンには、17の目標と関連する様々なトピック、すべてのコミットメントを「ビアマット(コースター)にまとめる提案をしました。サステナビリティ報告書は、CSR部門をはじめ、対外的にも大切であり、開示されてはいますが、消費者や従業員が積極的に自ら情報を求めにいくのはなかなか難しいですよね。「ビアマット」にたどりつくまでにまず私たちは「成功の指標の一つが簡単で定期的に伝わる」「誇りを持ってやっていること(ブランドのフィロソフィ)に関連するような方法」「日常生活の一部となるようなもの」を目標に、デザイン思考を用いて共創ワークショップを行いました。共創」のための重要なポイントの一つが複数のステークホルダーを含めた幅広い視点です。ワークショップにはサステナビリティのエキスパートや報告担当者だけでなく、ハイネケンのブランディングチームメンバーやビジネスやサプライチェーン関係者がワークショップに参加し、その視点が今回のプロジェクトに採用されました。

「大胆でわかりやすく、ブランド哲学が伝わる手法」


グラスやボトルを置くときにその下に敷く「ビアマット(コースター)」はハイネケンの世界に人々を誘うもの。”人々が集まりビールを楽しむ”その時、その場にあるものです。そのビアマットの表面にハイネケンが取り組んでいること、「2030年までに達成すべき目標基準を上げよう」という行動への呼びかけが書かれています。また3つの柱「人・ 地球・ 責任」についても言及しています。裏面にはハイネケンの21の取り組みが書かれており、例えば「大麦は100%地元で調達する」「ソーシャルインパクトプログラムをハイネケンの全市場で実施する」「ハイネケンを販売する際は必ずノンアルコールも販売する(ビールを飲む際の選択肢を与える)」など具体的な21の取り組みをあげています私たちはSDGsを構造の上位ではなく、コミットメントと共に構造の下位に置くことにしました。これらの全てが廃棄物や水利用、CO2排出などの領域だけでなく「ダイバーシティと包括性」「男女平等と自由」「給与の公平性」などSDGsの各項目に繋がってることがわかります。

その大胆さとわかりやすさ、つまりビアマットのような庶民的なものにコミットメントを載せているという点をCEOもとても気に入り、彼がスピーチをする時などにも活用されています。

日本でも多くの企業がこのような「共創」への取り組み、つまり ーデザイン思考を使って課題を発見、明確にし、ステークホルダーをはじめとするさまざまな立場、視点からアイデアや意見を恐れることなく出す場を創出する。そして、その中からベストなものを選びだし、プロトタイプを作って実装、フィードバックを得て改善していくー からヒントを得られたら幸いです。

おわりに


以下のリンクより、今回の対談「共創とサステナビリティ~欧州大手企業のビジネスモデルと取り組み」のアーカイブ動画をご覧いただけます。「サステナビリティをビジネスに取り入れたい方」「欧州のサステナビリティに興味がある方」にむけファッション業界や食品・飲料メーカー業界における事例を中心に「共創」の重要性やヨーロッパの大手企業の取り組みがわかる、全5本のラインナップをお届けします。

「~共創とサステナビリティ 欧州大手企業のビジネスモデルと取り組み~」

登壇者プロフィール


ベッティーナ・メレンデス Bettina Meléndez     

ニューロマジック/サステナビリティ・トランスフォーメーション・グループリーダー

ベネズエラ生まれ、オランダ育ち。現在はベルリンを拠点に活動。電通アムステルダムやWieden+Kennedyアムステルダムなどの国際的エージェンシーでの戦略立案に携わった後、オランダ領キュラソー島政府観光局における欧州マーケティングおよびPRのマネージメント職を経て、ベルリンのスタートアップシーンにてカスタマーエクスペリエンス、サービスデザイン、コミュニケーション、ビジネスデザインの職務を経験。これらの豊富なビジネス経験と、10代の頃からの複数NGOでの社会貢献や社会ボランティア活動を通じて、ビジネスにおいて持続可能な目標を達成するために必要な、社会、環境、経済のバランスについて幅広い知見を身につけました。2021年、ニューロマジックに参画。デザイン思考およびシステム思考のメソッドを用いて、ビジネスにインパクトを与えるソリューションの創造を支援しています。

HP:https://www.neuromagic.com/

ジェームズ・フェーンホフ James Veenhoff    

オランダで生まれ育ち、ビジネスと人類学を学ぶ。ブランド開発、ファッション、プレミアム、ラグジュアリーブランドの戦略における豊富な経験を持つ。
デニムに関連する企業やプロジェクトを支援する財団「House of Denim」の創設者であり、世界初のジーンズの専門学校「Jean School」の開設や、持続可能な繊維産業を目指す「Denim Deal」への参加、デニム産業で必要な工程を一つの敷地に集めた施設「Denim City」の運営などに携わる。ほか、アムステルダム国際ファッションウィークやFronteer社の共同設立者でインパクト戦略を担当。現在は、Elemental社を共同設立し、ブランド、政府、NGOのアドバイザーとして特に教育の分野に力を入れています。
2021年『Collaborate or Die』(共創のためのチェンジメーカー・ハンドブック)を執筆。

HP:https://elementalstrategy.com/