AI時代のサイトリニューアル(前編) ―「作り直す」前に、どの経営課題を解くのかを問う

サイトリニューアルのご相談をいただくとき、たいていは、現在のサイトのデザインや機能、コンテンツなどを変えたい、新しくしたい、というところから始まります。とても自然な入り方ですね。それらは、事業全体の中でのウェブサイトの機能について、理想とのギャップがある、ということを、少し具体的に言葉にしているわけです。

ウェブサイトは、顧客やステークホルダーとのタッチポイントの一つですから、その変更は、何らかの経営課題を解くための手段の一つ、ということになります。

そして今、AIがこの「手段としてのサイト」の意味を、根っこから変えつつあります。

この記事では、「作り直す」を出発点にしないサイトリニューアルの考え方を、前編と後編の二回に分けてお話ししたいと思います。前編では、そもそも問いの立て方が変わった、というところまで。

「作り直す」から始めない

リニューアルを検討するとき、最初に置くべき問いは「どんなサイトにするか」ではありません。「どの経営課題を解きたいのか」です。まず経営課題があり、その解決手段が複数あって、そのうちの一つの接点としてウェブサイトがある。この順番を飛ばして「とにかく作り直す」から入ると、手段が目的を乗っ取ってしまうのですね。

多くの会社では、リニューアルは「やるか、やらないか」で語られます。でも僕らは、「経営課題に対して、どの接点に、どれだけ振るべきか」という問いに置き換えたい。だから、その課題にいちばん効くのが別の接点なら、「サイトには投資しない」という結論すら、正解になります。まずは、この一段高いところから眺めてみませんか。

AIが変えたのは「制作コストの基準線」

では、なぜ今この問い直しが必要なのでしょう。AIによって「制作コストの基準線」が下がったからです。ただ、ここは言葉を正確に選びたいところです。

「とりあえず作る」「サイトがあればいい」というレベルなら、制作コストは実質ゼロに近づきました。かつては必ずベースとしてかかっていた制作費、その土台そのものが、もうベースではなくなったのです。ただし、勘違いしてはいけません。「経営課題を動かすサイトを作る」コストまでゼロになったわけではない。ゼロになったのは、誰でも作れてしまうコモディティ、つまり均質化して差がつかない部分の床だけです。

だとすると、結論はむしろ逆を向きます。作れること自体は、もう価値ではありません。「あるだけのもの」を誰でも無料で持てるようになったからこそ、「何を作るか」を決める判断の価値が、ぐっと上がる。「だから安く作れます」ではなく、「あればいいものは無料になった、だからこそ、何を作るかにこそ投資すべき」。この逆転が、これからのリニューアルの出発点ではないでしょうか。

勝負は「安く作ること」ではなく「リターンの設計」

少しだけ、算数の話を。ROIは、リターン(R)を投資(I)で割ったものです。AIによって、I のうち「作るだけ」のコストが基準線から外れていく。割り算だけを見れば、ROIはどこまでも良くなります。

でも、落とし穴があります。I を小さくすること自体は、目的ではありません。どれだけゼロに近づけても、肝心の R の絶対量が小さければ意味がない。分母を小さくして数字だけ綺麗に見せる、経営を一ミリも動かさない「貧しい最適解」に陥るのです。だからルールが変わります。「I をどう節約するか」から、「R をどう設計するか」へ。

ここで、大事な但し書きを一つ。この R は、「サイトのコンバージョン数やアクセス」のことではありません。R の原点は、あくまで経営課題の解決量です。サイトの指標は、そこへ向かう代理の目印にすぎない。これまでは制作費が予算の多くを食べていたので、ペルソナやカスタマージャーニー、役割定義といった上流に回せる比率には限界がありました。今は制作費が基準線から外れた分、上流に思い切って振り切れます。ただし、安くなったことに釣られて上流の検討までケチると、R は育ちません。どこに、どれだけ張るのか。この見極めこそが、問われる時代になったのだと思います。

まとめと、後編にむけて

まとめると、こうなります。ウェブサイトは経営課題を解くための手段の一つであり、リニューアルの最初の問いは「どんなサイトにするか」ではなく「どの経営課題を解くのか」である。AIが下げたのは「あればいい」という制作の基準線であって、経営課題を動かすサイトを作るコストが消えたわけではない。だから勝負は、I を安くすることから、R をどう設計するかへ移った。

では、その R は、どうやって設計すればよいのでしょう。鍵は、接点にどんな役割を持たせるか、にあります。後編では、その役割を「誰を、どの状態から、どの状態へ動かすのか」と定義し直し、ボトルネックに振り切るという考え方をお話しします。よろしければ、後編もお付き合いください。

【次回予告】

後編:AI時代のサイトリニューアル ― 接点の役割を定義し、ボトルネックに振り切る

後編では、R をどう設計するのかを、五つの手順でお話しします。経営課題を「状態」の言葉に翻訳し、旅程のどこで止まっているのかを見つける。そして当社が、ときに「作らない」という判断をするのはなぜか。後日公開予定です。

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