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サービスデザインスプリントとデザインスプリントの違いとは?

   

アメリカ人デザイナーで、元Google VenturesのパートナーのJake Knappが2016年に書籍『Sprint』を出版してから、「デザインスプリント」という言葉はすっかりもう数年間もトレンド。でも、実際のところデザインスプリントとは何かご存知でしょうか。Jakeはこう述べています。

Sprints offer a path to solve big problems, test new ideas, get more done, and do it faster.

スプリントは大きな問題を解決し、新しいアイデアを検証し、より多くのことを成し遂げ、早く行うための道筋を示してくれる。

– Jake Knapp
4日間のデザインスプリント2.0を表す図と製品展開サークル

Jake KnappとGoogle Venturesが定めるデザインスプリント(GVスプリント)は、5日間にわたるタイムボックス方式(決められた時間内にエクササイズをし、進めていく方法)を採用していて、アイデアを素早く創出し、プロトタイプを制作し、検証することができる手法です。本来プロダクトをローンチする前には非常に長い時間がかかりますが、デザインスプリントを活用することで、こうしたプロセスを生産的にすることができます。

ニューロマジックでは、GVスプリントを「プロダクトデザインスプリント」と呼んでいます。というのも、これは「サービスデザインスプリント」というもう一つの重要なデザインスプリントが存在しているから。プロダクトデザインスプリントとサービスデザインスプリントは混同されることが多いですが、実はこの2つの間には根本的な違いがあります。

サービスデザインスプリントは、 Livework ラテンアメリカ支社の共同創設者であり、前CEOであるTenny Pinheiroによって開発されました(ちなみに、ニューロマジックのサービスデザイナー Felipe Pontesは2012年に出版されたTennyの書籍『Design Thinking Brasil』の共著者です)。プロダクトデザインスプリントとは異なり、サービスデザインスプリントはサービスデザインの基本的な要素、包括的な視点を持つ、ということに焦点を当てています。すなわち、単一のプロダクトやユーザーに注目するのではなく、制作チームからサービスを実行するチーム、そしてユーザー、さらにはユーザーの友人や家族まで、サービスエコシステム全体を考えることができるのです。

サービスデザインスプリントの開発者であるTenny Pinheiroにインタビュー

それでは、ここからはプロダクトデザインスプリントとサービスデザインスプリントをよく理解するために、2つの共通点と相違点をみてみましょう。

共通点は?

タイムボックス方式

デザインスプリントのファシリテーターの机に置かれたタイマー

スプリントの最も基本的な利点は、サービスに焦点を当てているか、プロダクトに焦点を当てているかに関わらず、短期間でアイデアを創出し、プロトタイプを作成できるということにあります。そう、だから全てのスプリント中のアクティビティは、タイムラインできちんと時間管理することが重要なのです!時間制限を設けることで、参加者が自分のアイデアに自信がなく、延々考えてしまう…なんてことにならず、素早くアイデアを出すように適度なプレッシャーを与えることができます。

プロトタイピング

サービスプロトタイプを製作している横須賀高等学校の生徒

プロトタイプ制作は、スプリントの意図的に作られたスピード感と深く関連しています。プロトタイプの形式は、デザインの対象がプロダクトか、サービスであるかによって様々ですが、どちらのデザインスプリントでもプロトタイプの制作は行います。素早く使用できるソリューションを創り出すことで、実際に開発を進める前にステークホルダー内でイメージを共有したり、ゴールを明確にすることができます。

個人ワークとチームワーク

デザインスプリントワークショップで付箋にアイデアを記入する会社員

どちらのスプリントでも、個々でアイデア創出を行ったあと、他のチームメンバーと話し合い、アイデアを比べ、決定を下すという収束的なプロセスがあります。これは、成功するアイデアの創出に重要な要素。逆のケースを考えてみるとよくわかるのですが、個人でアイデア創出をする時間がなく、全て共同作業だったとしたらどうなるでしょうか。自分で主張する人の意見は通るのですが、本当に一番優れたアイデアが、自己主張が苦手な人のところに隠れているかもしれませんよね。ですから、まずは個人で作業し、そのあと全員がアイデアを共有することで、最終的に本当にユニークだったソリューションが選ばれるようにできるのです。

投票と意思決定

デザインスプリントワークショップでドット投票をする男性

プロダクトデザインスプリント、サービスデザインスプリントどちらにおいても、意思決定は投票を利用して行われます。これにより、意思決定プロセスにおいて民主主義的な方法を保ちながら、簡単にチームでの合意形成をすることができるのです。また、投票ではステッカーを使用するのですが、そうすると投票が視覚化され、どこに票が集まったかが簡単に把握できるようになりますよ。

では、今度は2つのデザインスプリントの主な違いと、結果にどんな差が生まれるのかみてみましょう。

違いは?

チーム編成

プロダクトデザインスプリントでは異なる分野の専門家によるチーム編成が必須です。例として、アプリ機能の開発を行うデザインスプリントであれば、UXデザイナー、UIデザイナー、グラフィックデザイナー、マーケター、会社のCEO、人事担当者といった感じ。重要なポイントは、それぞれが異なる分野の専門性を発揮できる、ということです。一方、サービスデザインスプリントにおけるチームは様々な方法で構成することが可能です。もちろん、専門家を集めてチームを構成することもあるのですが、スプリントチャレンジ(デザインスプリントで取り組む課題)によっては同じ会社や、同じ部署のメンバーということもあり得ます。

インタビュー / ユーザー・リサーチ

東京オフィスでのデプスユーザーインタビューでのインタビュアーとインタビュイー

サービスデザインでは全般的に(デザインスプリントだけに限らず)、定量調査よりユーザーリサーチなどの定性調査に重きを置いています。一方GVスプリントでは、主な目的が素早くプロトタイプを作成して検証することにあり、リサーチにはそれほど重きを置いていません。仮にプロトタイプがうまく機能しなければ、繰り返し次のスプリントで新しいプロトタイプを制作します。

ペルソナ

デザインスプリントワークショップで作成したペルソナをボードに描く女性

プロダクトデザインスプリントではペルソナを使いません。プロダクトデザインスプリントでは、専門家の意見をもとに制作した、プロトタイプの検証に重きを置いていて、ユーザー像はスプリントプロセスの最後にようやく登場します。一方サービスデザインスプリントでは、ペルソナはスプリントプロセス全体に影響を与える重要な要素で、プロセスの最初の方に登場します。このペルソナは、カスタマージャーニーを作成するためのスタートポイントとして使用されます。

カスタマー・ジャーニー

プロダクトデザインスプリントでは、ゴールとタッチポイントを明確にするため、どのようにユーザーがプロダクトと関わるかを表す、とてもシンプルなマップを作成します。一方サービスデザインスプリントでは、ユーザーリサーチとペルソナに基づいてカスタマージャーニーが作成されます。カスタマージャーニーは、ユーザーのタッチポイントを明確にし、問題を定義し、ユーザーとの関わりの中で新たな機会を発見するのにとても有効なツールです。

タイムマシン

サービスデザインスプリントで使用するタイムマシン

タイムマシンというエクササイズは、サービスデザインスプリントの最初のステップ。スプリントチャレンジの過去、現在、未来をみることで、スプリントチームのゴールを定義するのに役立ちます。スプリントチームはこのエクササイズで、誰が自分たちのチャレンジに巻き込まれたのか(過去)、巻き込まれているのか(現在)、巻き込まれるのか(未来)、そして彼らはどのように関わったのか(過去)、関わっているのか(現在)、関わるのか(未来)というトピックに関して情報を集約します。一方、プロダクトデザインスプリントではこのエクササイズは行われません。


さて、ここまで比較をしてみましたが、違いがお分かりいただけたでしょうか?プロダクトデザインスプリント(GVスプリント)は1つの特定の課題を解決することに焦点を当てています。主にデジタルプロダクトのデザインに使用され、焦点を絞り、検証を重点的に行うことができます。しかし、広いシステムの中で生じる問題に対する理解を深めるには、これはベストな解決策ではありません。そんな時に適しているのが、サービスデザインスプリント。サービスデザインスプリントは、より広い視点をもち、包括的で、ユーザーリサーチに重きを置いています。プロジェクトを始動させるときに最適な方法で、幅広いソリューションへと導くことができますよ。

心に留めておくべき最も重要なことの1つは、サービスデザイン自体は分野であり、サービスデザインスプリントは、素早くアイデアを創出し、プロトタイプを制作するために使用される方法、つまりサービスデザインという分野におけるツールであるということ。サービスデザインは、様々な異なるツールとメソドロジーを持ち、組織内外の問題や、非営利団体、企業、政府、そしてサービスが採用されているあらゆる場所において、包括的な視点でサービスを開発、向上させることができますよ。

岩田エレナ

デジタルコンテンツプロデューサー

アメリカ出身。メディアコミュニケーションの学士号を取得後、2019年ニューロマジックに新卒入社。現在は自社のSNS企画運営に加えて、サービスデザインに関する記事の執筆、インタビュー、撮影までをマルチにこなす。

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