「この件は○○さんに聞かないとわからない」——サステナビリティ推進の現場で、こんな言葉を耳にすることが多くあります。担当者が異動や退職をするたびに、組織は混乱し、積み上げてきた取り組みが停滞する。多くの企業が、この「属人化」という見えない罠に苦しんでいます。
属人化とは、単に「特定の人しかできない状態」を指すだけではありません。その正体を分解すると、実は三つの構造的な問題が絡み合っています。
第一に、言語化されていない業務です。担当者の頭の中には手順や判断基準があるのに、それが文字として記録されていない。だから他の人が引き継げないのです。
第二に、属人化された知識で運用されるプロセスです。「このデータはこのタイミングで集める」「この部署にはこう依頼する」といった、やり方が形式として共有されていません。担当者の経験と勘に依存した運用が続いています。
第三に、”この人がいれば大丈夫”という状態が常態化していることです。一見すると、その担当者は優秀で頼りになる存在に見えます。しかし、組織の視点で見れば、これは極めて危険な状態です。その人が不在になった瞬間、業務は止まり、外部からの問い合わせにも答えられなくなります。
属人化は、担当者個人の問題ではありません。それは、組織が「仕組み」を持っていないことの表れなのです。個の力に依存した体制で回している状態は、いつか必ず限界を迎えます。
属人化が起こる本質的理由=文書不備
では、なぜ属人化は起こるのか。その根本原因は、極めてシンプルです。それは「文書がない」という一点に集約されます。サステナビリティ推進において、多くの企業で共通して見られるのが、以下のような文書不備です。
ルール未整備
環境データの収集ルール、サプライヤーへの依頼方法、報告書の作成手順——こうした業務を規定するルールが存在しないか、あっても古くて実態と合っていません。ルールがなければ、担当者は毎回判断を迫られ、その判断は個人の裁量に委ねられます。
マニュアルなし
「どうやってCO2排出量を計算するのか」「EcoVadisの質問にどう答えるのか」——こうした具体的な作業手順がマニュアル化されていません。だから、新しい担当者が来ても、手探りで情報を集めることや、試行錯誤を強いられます。
プロセス記載なし
誰がいつ何を承認し、どの部署がどのタイミングで関与するのか。こうした業務フローが図示されていないため、関係者全員が全体像を把握できません。結果として、担当者だけが全体を把握し、調整役を一手に引き受ける構造が生まれます。
組織図・役割不明
サステナビリティ推進における責任者は誰か、実務担当者は誰か、承認者は誰か——これらが明文化されていません。曖昧な役割分担のまま進めると、「結局あの人がやってくれる」という依存構造が固定化します。
これらの文書不備は、すべて「仕組みがない」ことを意味しています。仕組みがないから、人に頼るしかない。人に頼るから、属人化が進む。この悪循環を断ち切らない限り、担当者が変わるたびに同じ問題が繰り返されます。
外部評価は”属人化を容赦なく暴く”

属人化の問題は、社内ではなかなか顕在化しません。「今のところ回っているから」と見過ごされがちです。しかし、外部評価を受ける段階で、この問題は容赦なく露呈します。EcoVadis、CDP、その他のサステナビリティ評価機関は、企業に対して必ず「証憑(エビデンス)」を求めます。方針文書、手順書、承認記録、実施報告——これらの証憑が、評価のベースとなります。
なぜ証憑が必要なのか。それは、評価機関が見ているのは「担当者の能力」ではなく、「組織の仕組み」だからです。
たとえば、「環境方針はありますか?」という質問に対して、担当者が口頭で説明しても意味がありません。文書化された方針があり、それが承認され、社内に周知されている——この一連のプロセスが証憑として示されなければ、評価されないのです。「うちはちゃんとやっています」と主張しても、証憑がなければ評価機関は認めません。なぜなら、証憑がない=仕組みがないと見なされるからです。
属人化している業務は、まさにこの「証憑がない状態」に直結します。担当者の頭の中やメールのやり取りに散らばっている情報は、外部評価では何の意味も持ちません。文書化され、承認され、組織として管理されていて初めて、それは「仕組み」として認められるのです。外部評価は、属人化という組織の脆弱性を、最も厳しい形で浮き彫りにします。そして、その指摘を受けて慌てて文書を整えようとしても、短期間では対応しきれません。だからこそ、評価を受ける前に、属人化を解消しておく必要があるのです。
属人化脱却の方法は”構造化+業務分解”
では、どうすれば属人化から脱却できるのか。その答えは、「構造化」と「業務分解」という二つのアプローチにあります。
タスクをプロセスに戻す
属人化している業務の多くは、「○○さんがやっている」という”タスク”として認識されています。しかし、本来それは一連の「プロセス」であるはずです。
たとえば、「環境データを集める」というタスクは、実際には以下のようなプロセスから成り立っています。
- 各拠点に依頼フォーマットを送付する
- 回答期限を設定し、リマインドを送る
- 回収したデータを確認し、不備があれば差し戻す
- データを集計し、計算式に基づいて排出量を算出する
- 算出結果を責任者に報告し、承認を得る
このプロセスを明文化することで、誰が見ても手順がわかる状態になります。担当者が変わっても、プロセスに従えば同じ成果が得られるようになるのです。
業務を文書に戻す
次に必要なのは、そのプロセスを「文書」として定着させることです。具体的には、以下のような文書体系を整備します。
- 業務フロー図:誰がいつ何をするのかを可視化
- 手順書・マニュアル:具体的な作業手順を記載
- 様式・フォーマット:依頼文書、報告フォーマットを標準化
- 役割定義書:誰が責任者で、誰が実務担当か明記
こうした文書を整備することで、業務は「人」から「プロセス」へと移行します。
個人依存 → プロセス依存への転換
属人化脱却の本質は、「個人依存」から「プロセス依存」への転換です。優秀な担当者がいなくても、プロセスがしっかりしていれば、誰でも一定の品質で業務を遂行できる。これが、組織として目指すべき状態です。
この転換は、決して担当者の価値を下げるものではありません。むしろ、担当者を「業務に追われる人」から「仕組みを設計し、改善する人」へと役割転換させるものです。属人化から解放されることで、担当者はより戦略的な業務に集中できるようになります。
ニューロマジックの支援で何が変わるか

ニューロマジックが提供する支援の核心は、「文書体系の整備」と「仕組み化」です。属人化に苦しむ企業に対して、以下のような支援を行います。
- 文書体系整備
まず、現状の業務を棚卸しし、どの文書が不足しているのかを特定します。その上で、業務フロー、手順書、様式、役割定義といった文書を体系的に整備します。これにより、業務が「見える化」され、誰でもアクセスできる状態になります。
- 評価に耐えられる”仕組み化”
文書を作るだけでは不十分です。それが実際に運用され、承認され、管理されている——つまり「仕組み」として機能している状態を作ります。この仕組みがあれば、外部評価においても自信を持って証憑を提出できます。
- 担当者が変わっても続く体制
最も重要なのは、「担当者が変わっても続く体制」を構築することです。引き継ぎがスムーズになり、新しい担当者が短期間で自走できる。この状態こそが、組織としての成熟度を示します。組織としては経験や判断を仕組みに落とし込み、再現性を確保する必要があります。
- 仕組みで回る組織へ
属人化の解消は、一朝一夕にはできません。組織として、個人の経験や判断を仕組みに落とし込み、再現性を確保する必要があります。ニューロマジックは、属人化によるリスクを、組織の力へと転換するための支援を行います。
「うちの会社は属人化している・・・」という不安を感じているのであれば、それは体制をアップデートする絶好の機会です。
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