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サステナビリティに取り組む企業が「システム思考」を導入するべき理由

   

現在のビジネスシーンにおいて、持続可能な開発は紛れもなく重要な課題となっています。しかし、最初の一歩を踏み出そうとしても何から手をつけてよいのか分からず、途方に暮れてしまう企業も多いのではないでしょうか。本記事では、持続可能な改革のための構想策定や分析に広く用いられる、持続可能な開発ソリューションにおいて重要な思考法「システム思考(Systems Thinking)」をご紹介します。

企業はどうすれば経済成長と環境保護を両立させることができるのでしょうか?社会的責任をどのようにビジネスモデルに組み込むことができるのでしょうか?一見シンプルに見えるこれらの問いは、実は非常に複雑であり、持続可能な開発において数十年にわたり研究されてきたテーマです。ニューロマジックは、システム思考が強力なツールとなり、新たな視点を与え、企業が現状を徹底的に検証し、持続可能な開発目標を達成する一助になると信じています。

システム思考とは?

「システムダイナミクス(system dynamics)」に依拠したシステム思考は、数十年にわたって発展し、現在では複雑な問題を解決するための思考方法論として知られています。環境問題だけでなく、社会、経済、政治システムにも広く応用され、包括的で持続可能な問題解決の方法論として評価されています。

ピーター・センゲ著『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』(原題:『Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization』)では、システム思考の事例として、プロダクトデザインと資源消費の関係、組織の内部統合や学習の理解、サプライチェーンの決定が環境や社会の持続可能性に与える影響の分析などが挙げられています。

システム思考とサステナビリティのつながり

システム思考の観点から見て、持続可能な開発は複雑なシステムの問題であり、包括的かつ長期的な視点を持つことが必要とされます。点、線、面のつながりを特定し、さらに相互の影響を洗い出すことが大切です。持続可能な開発において企業が直面する課題は、複雑で、相互に関連し合い、常に変化しています。人間中心の思考と地球中心のアプローチを組み合わせることで、組織、個人、環境にとってバランスの取れた実行可能な解決策を達成することができると考えています。

持続可能な開発におけるシステム思考には、以下のような例があります。

⚫︎社会問題の根本原因を特定する

システム思考は、企業が社会問題の根本原因を特定するのに役立ち、より効果的な解決策の策定を可能にします。例えば、今日の重要な世界的課題である気候変動。システム思考は、食料安全保障、水資源、健康などの気候変動が目標に及ぼす悪影響を企業が理解することを支援し、効果的な排出削減策の開発を促進します。

⚫︎様々な意思決定の持続可能性を評価する

システム思考は、企業が様々な意思決定の持続可能性を評価する際に役立ち、持続可能な開発目標に沿った、より多くの情報に基づいた意思決定を可能にします。例えば、新製品を開発する際、企業はシステム思考を使って、その製品の経済的、環境的、社会的利益を評価し、持続可能な開発目標により近い意思決定を行うことができます。

⚫︎ステークホルダー間のコラボレーションの促進

システム思考は、企業が持続可能な開発問題に一段となって取り組むために、ステークホルダー間のコラボレーションを促進するのに役立つます。例えば、水質汚染に取り組む際、システム思考を活用することで、問題に関わる様々なステークホルダーを特定し、解決策を策定・実施するために協力し合うことができます。

サステナビリティマネージャーや責任者が始めるべきこと

システム思考に関する参考資料やツールをご紹介します。

おすすめの著書

システム思考に関心のあるサステナビリティマネージャーや責任者には、ピーター・センゲ著『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』(原題:『Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization』)とドネラ・H・メドウズ著『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』(原題:『Thinking in Systems: A Primer』) をおすすめします。システムダイアグラムやバリューチェーン分析の応用に深く踏み込む場合、これらのツールは企業の生産、運営、管理プロセスを分析し、持続可能な開発に影響を与える可能性のある要因を特定し、より効果的な解決策を策定するのに役立ちます。

システムマッピング

システムマッピングは、システムの構造とインタラクションを示すためのツールです。企業がシステム内の重要な問題やつながりを特定するのに役立ちます。

サステナビリティマネージャーや責任者は、システムマッピングを使って企業の生産、運営、管理プロセスを分析し、サステナビリティに影響を与える可能性のある要因を特定することができます。例えば、サプライチェーンにおける環境への影響や、製品の社会的影響を分析できます。

有名なデザイン会社IDEO(こちら)(※1)は、システムマップを使って “公立高校の生徒の体験”を説明しています。このシステムマップは、生徒と生徒の利害関係者の距離とつながりを明確に示しており、日常的に直接的な交流がないにもかかわらず、地元の教育委員会が生徒の経済的状況に強い影響を及ぼしていることを明らかにしています。

What is a Systems Map?システムマップとは何か?

システムマッピングのより詳細なアプローチについては、この記事(英語)(※2)をご参照ください。この記事では、システムの要素を抽出し、抽象化し、それらを組み立て直して関係性を明確にする詳細なプロセスが紹介されています。

Tools for Systems Thinkers: Systems Mapping

(※1)https://www.ideou.com/blogs/inspiration/what-is-a-systems-map

(※2)https://medium.com/disruptive-design/tools-for-systems-thinkers-systems-mapping-2db5cf30ab3a

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析とは、製品やサービスの生産・流通過程を明確にするためのツールです。バリューチェーン分析を通じて、サステナビリティ・マネージャーや責任者は、生産、加工、包装、輸送、販売、使用、リサイクルなど、製品やサービスのライフサイクルにおける様々な段階を詳細に把握することができます。

これにより、企業は持続可能な開発に影響を与える可能性のある要因をより包括的に特定することができるのです。オペレーションの構造に焦点を当てた従来のサプライチェーン分析とは異なり、バリューチェーン分析は、システムの様々な部分によって生み出される実際の価値を、顧客の視点から見ることに重点を置いています。例えば、企業はバリューチェーン分析を使って、製品のカーボンフットプリントやウォーターフットプリントなどを調べ、環境への悪影響を減らすための具体的な対策を立てることができます。

持続可能性の面では、これは生産過程での損害を減らすだけでなく、持続可能な社会と環境に価値をもたらす製品やサービスを生み出すことにつながります。企業がサプライチェーンの持続可能性を検討する際、通常は環境への影響に焦点を当てますが、バリューチェーン分析では、より包括的なアプローチをとり、環境と社会にとってプラスとなる価値創造を総合的に検討することができるのです。

ニューロマジックの事例:

ニューロマジックは、バリューチェーン分析と同様のフレームワークを用いて、クライアントであるGEECHSの社内の「Social Impact Flow」(※3)を定義するお手伝いをしました。これは、インプット、グループシナジー、アウトプット、アウトカムの4つのステージにおいて、どのように社会的に貢献しているかに焦点を当てたものです。クライアントとの共創的アプローチを通じて、クライアントの課題や強みが、かれらのストーリーとなり、社会的インパクトをもたらすことがわかりました。

(※3)https://geechs.com/blog/20230802_socialimpactflow/

インプット、グループシナジー、アウトプット、アウトカムについて

  • インプット: 資源、時間、人材、資金など
  • グループシナジー:企業が社会のさまざまなセクターと協力することによって生まれる相乗効果
  • アウトプット: 企業が提供する製品、サービス、有形無形を問わないその他のあらゆる成果
  • 成果: 社会レベルで実際に生み出された効果を重視するもので、地域社会の発展、教育改善、環境保護などが含まれる

「Social Impact Flow」のようなツールは、企業がどのようにシステム思考を用いて持続可能性の課題に様々な視点からアプローチしているのかを明確するだけでなく、より深い理解を可能にするのです。

まとめ

システム思考の方法論を通じて、企業は持続可能な開発の課題を包括的に理解し、対処することができ、経済、環境、社会の相互発展に貢献することができます。本記事が、持続可能な発展への道を歩む企業にとって、指針とインスピレーションとなることを願っています。

サステナビリティへの影響の把握、追跡、報告についてご興味をお持ちの方は、お気軽にニューロマジックまでお問い合わせください。ワークショップ、リサーチ、コンサルティングを通じて、マテリアリティの特定をするお手伝いをいたします。GRI認定のサステナビリティプロフェッショナルがチームに在籍しているため、グローバルスタンダードに沿った成果をお約束するとともに、お客様ニーズに合わせてカスタマイズすることも可能です。

組織内の主要なサステナビリティ問題を把握した後は、サステナビリティデータ管理・分析ツール「SustainLab(サステンラボ)」を利用して、サステナビリティへの影響を追跡することもできます。ヨーロッパのサステナビリティリーダーとAIデータサイエンスの専門家によって構築されたSustainLabは、サステイナビリティデータの一元的かつ効率的な管理、アップロード、分析、報告を可能にし、実用的で使いやすいインターフェイスで最先端の技術を活用しています。

サステナビリティデータマネジメント資料

References:

  • The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization by Peter M. Senge
  • Thinking in Systems: A Primer by Donella H. Meadows
  • Tools for Systems Thinkers: Systems Mapping by Leyla Acaroglu, source
  • What is a Systems Map? by IDEO U source
  • 「GEECHS Social Impact Flow」が掲げるギークスのサスティナビリティ推進とは by GEECHS source

サブリナ(楊淳涵)
サステナビリティ・デザイン・コーディネーター

台湾・高雄出身。パンデミックの間に北海道大学で観光メディアの修士号を取得。現在は東京在住で、時折世界中を旅しています。学生時代には、中国語と英語の教育、ユーザー調査、消費者マーケティングの経験を積みましたので。今の日常生活は三つの言語と多様な文化の間でバランスをとっています。現在はSXGでプロジェクト管理を担当し、学習者の視点から、「サステナビリティ」と「サービス設計」に関する見識を共有しています。

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