【SSBJ時代に考える「人権DD」】取引先アンケートへの回答で終わらせないために


「取引先から、人権に関するアンケートが届くことが増えた」

最近、企業のサステナビリティや調達に関わる方から、こうした声を聞く機会があります。

人権方針はあるか。人権リスクを評価しているか。相談・通報窓口を設けているか――。

アンケートへの回答は、自社の状況を取引先に伝えるための大切な対応です。一方で、質問に「はい」と答えることと、その内容を具体的に説明できることは、必ずしも同じではありません。制度や方針があっても、対象範囲や運用状況、担当部門が整理されていなければ、追加の確認を受けた際に回答が難しくなることがあります。

SSBJ基準は企業規模に応じて段階的に適用される制度設計となっており、該当企業では適用を見据えた準備が進められています。サステナビリティ情報をどのように把握し、管理し、説明するかがあらためて問われるなか、人権アンケートへの対応を一度きりの作業で終わらせず、人権デューディリジェンス(人権DD)の取り組みにつなげるには、どのような視点が必要なのでしょうか。

なぜ人権アンケートへの対応が増えているのか

国内外でサステナビリティ情報の開示をめぐる動きが進むなか、日本でもSSBJ基準が公表され、今後の適用を見据えた準備が始まっています。企業には、方針の有無だけでなく、リスクをどのように把握し、管理し、説明するかという視点が、これまで以上に求められると考えられます。

人権アンケートは、SSBJ基準によって直接求められるものではありません。一方で、顧客企業や親会社が、自社の事業やバリューチェーンに関わる人権リスクを把握する過程で、取引先の状況を確認する手段として活用することがあります。

そのため、自社が情報を開示する側になるだけでなく、他社のリスク管理や情報開示を支える情報提供者として見られる場面も増えていると考えられます。こうした状況では、アンケートに回答できるかどうかだけでなく、その回答を支える方針や体制、記録、日々の運用をどこまで説明できるかが重要になります。

アンケート対応で生じやすい3つのズレ

一つ目は、回答と実態のズレです。

たとえば、「相談窓口がある」と回答していても、誰が利用できるのか、相談後にどの部門が対応するのか、結果をどのように記録するのかまでは整理されていない場合があります。
制度が存在していること自体は重要です。ただし、「誰を対象に、どのように運用しているのか」を説明できなければ、回答の根拠が伝わりにくくなる可能性があります。

二つ目は、部門間のズレです。

人権に関する取り組みには、人事、総務、法務、調達、経営企画、サステナビリティなど、複数の部門が関係します。各部門で必要な対応を行っていても、情報がつながっていなければ、企業全体として一貫した説明をすることが難しくなります。
アンケートが届くたびに担当者が各部門へ確認し、情報を集め直している場合は、回答方法だけでなく、社内の情報や役割を整理する必要がある状態とも考えられます。

三つ目は、設計する順序のズレです。

個別のアンケートへの回答を重ねた後で全体を整えようとすると、過去の回答との整合性を取ることが優先され、本来どのような仕組みが必要なのかを考えにくくなることがあります。
過去の回答を否定する必要はありません。回答した時点での対象範囲や前提を確認しながら、現在の運用と今後の改善方針を整理することが現実的です。

「今の回答」から、説明できる仕組みへ

人権DDを進めるために、新しい制度を一度に増やす必要があるとは限りません。

まずは、人権方針、就業規則、調達基準、研修、相談窓口、取引先管理など、すでに社内にある取り組みを洗い出し、それぞれの対象範囲や運用状況を確認することが出発点になります。

そのうえで、次のような点を整理していきます。

  • どの事業や取引先を対象とするのか
  • どのような人権リスクを優先するのか
  • 各部門がどの情報を管理しているのか
  • 対応状況をどのように記録し、説明するのか

最初からすべての事業や取引先を同じ深さで確認することが難しい場合は、対象範囲や優先順位を決め、必要なところから段階的に進める方法もあります。

重要なのは、アンケートごとに回答をつくる状態から、日常の管理や記録をもとに説明できる状態へ、少しずつ移行していくことです。

アンケート対応から、人権DDの継続的な運用へ

アンケート対応は、人権DDのすべてではなく、自社の現在地を確認する入口の一つです。まずは、すでにある方針や規程、社内体制、相談窓口、取引先管理などを整理し、自社ができていることと、今後整えるべきことを確認します。

最初からすべてを構築するのではなく、優先度の高い領域から、必要な取り組みを段階的に整えていくことが大切です。下図は、アンケート対応を入口として、現状整理や優先順位づけを経て、人権DDの継続的な運用につなげていく全体像を示したものです。

【図】アンケート対応から、人権DDの継続的な運用へ

人権DDは、リスクの特定・評価から、防止・軽減、是正・救済、モニタリング、情報開示までがつながる継続的なプロセスです。ただし、すべての企業が同じ順番、同じ規模で取り組みを整える必要があるわけではありません。事業内容や取引関係、すでにある制度や社内体制によって、優先すべき取り組みは異なります。

アンケートも、この全体像のなかで、自社がすでにできていることと、今後整理すべきことを確認する材料の一つとして活用できます。

まずは現状の整理から

アンケート対応が担当者任せになっている。部門ごとの取り組みがつながっていない。回答内容を具体的に説明することが難しい――。

こうした状況がある場合は、まず現在の取り組みや情報の流れを整理し、自社ができていることと、今後整えるべきことを確認することが出発点になります。

ニューロマジックでは、現在のアンケート回答や社内資料の確認、既存の方針・規程・運用の洗い出しなど、現状整理の段階からご支援しています。各社の状況に合わせ、人権リスクの整理や優先順位づけ、社内体制・情報開示との接続まで、必要なところから一緒に整えていきます。

「何から考えればよいか整理したい」「現在のアンケート対応を見直したい」

そのような段階からでも、お気軽にご相談ください。

人権DDへの第一歩は、新しい制度をつくることではなく、まずは「今あるもの」を整理することかもしれません。

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