ChatGPTをはじめとした、近年の生成AI技術の急速な進化により、プロダクト開発のあり方が劇的に変わり始めています。総務省の最新データによると、日本の生成AIシステム市場規模は2023年に約6,858億円に達し、2028年にはさらに拡大する見込みです(参照元:総務省)。これから、ビジネス現場で生成AIの活用が不可欠となっていくことが予想できます。では、このような時代の潮流に企業はどのように対応すれば良いのでしょうか?
2025年2月18日、株式会社To22と株式会社ニューロマジックによる「生成AIで仮説検証を効率化!ユーザーに響くプロダクトデザインの新戦略」セミナーが開催されました。同セミナーでは、To22代表取締役の野間康平さんとニューロマジックのデザインリサーチャーの吉岡直人さんが、プロダクトの開発段階での検証における生成AIの活用方法について登壇しました。本記事の前半では、そのイベントのレポートをお届けします。後半では、生成AIを活用するうえでのマインドセットをさらに深く理解すべく、登壇者の吉岡直人さんにインタビューを行いました。
セミナーレポート
市場リサーチを効率化し、マーケットフィットを見極める
第一部では、株式会社To22代表取締役の野間康平さんが登壇し、生成AIを活用した市場調査・競合分析の効率化の手法を解説しました。新規アイデアを形にする前には「その市場に本当にニーズがあるのか?」を見極めることが何より重要です。しかし、検索エンジンを使って人力で市場調査を行うには多大な作業工数がかかってしまいます。

そこで野間さんは、生成AIを活用した効率的な市場リサーチによって、この課題を解決できると説明します。例えば、生成AIを活用することで、業界内のニッチな領域における顧客ニーズを調査し、潜在的な市場機会の特定やターゲット層の把握が可能になります。また、競合分析においても、競合のプロダクトの基本情報やターゲット客層、潜在ニーズの解析などを生成AIなら迅速にまとめられるため、自社との差別化ポイントを早期に掴むことができるのです。
その他にも市場調査に関するフェルミ推定やアイデア出しの補佐、各種データ分析なども生成AIを活用して補完することができ、リリース前に市場と競合を生成AIで徹底的に下調べすることで、当たり外れの大きな賭けを避けられます。
ユーザー体験設計の革新
第二部では、ニューロマジックの吉岡直人さんが登壇し、生成AIを活用したユーザー調査とUX設計の新手法について紹介しました。真に価値あるプロダクトを生み出すには、ユーザーの課題に共感し、それを解決する優れたユーザー体験(UX)を設計することが不可欠です。しかし現場では予算やスケジュールの制約から、ユーザーリサーチやテストが十分に行えないまま開発が進んでしまい、結果としてユーザーに響かない製品が出来上がることもあります。

こうした課題の解決策として提案されたのが、生成AIを活用して新規プロダクトのペルソナ(架空のユーザー像)を作成し、短時間でユーザー目線のインサイトを得る手法です。ペルソナが何を感じ、どんな課題を抱えるかを生成AIとの対話を通じて洗い出すことによって、膨大な情報収集や分析従来のデスクリサーチを、効率的に代替できるのです。また、生成AIで作成したペルソナをもとにカスタマージャーニーをシミュレーションすることで、顧客体験を具体的に検証することも可能です。
加えて紹介されたのが、生成AIを活用したプロトタイプの“なりきり”擬似ユーザーテストです。吉岡さんは、試作したアプリのプロトタイプを操作している様子をリアルタイムで生成AIに見せながら、UXに関するさまざまな質問を問いかけることで、擬似的なフィードバックを即座に得られる様子をデモンストレーションしました。本物のユーザーではないとはいえ、ユーザーの初見の反応を生成AIを通して検証して、改善に役立てられることが期待できます。
今後のプロダクト開発における人間の役割
セミナー後半の参加者からの質疑応答では、野間さんと吉岡さんのお二人が生成AI活用の課題と可能性について、参加者からの質問をもとに議論しました。
この議論のハイライトとして、「生成AIの可能性とプロの視点が生むシナジー」が強調されました。生成AIによってリサーチもデザインも効率化できる一方で、最終的に生成された結果をどう解釈し戦略に落とし込むかは人間の役割です。生成AIが得意な領域と人間の強みを使い分け、ハイブリッドに組み合わせることが成功の秘訣であり、生成AIが示した洞察を鵜呑みにせずに人間の経験や直感で補完する。このような人間と生成AIの二人三脚こそが、これからのプロダクト開発に求められる姿勢だと感じさせるセッションでした。
登壇者インタビュー
生成AI活用の未来を拓くマインドセット
セミナーでは生成AIがビジネスにもたらす革新的な可能性について共有してきましたが、それを実際に活用して成果につなげるには、生成AIそのもの以上に、企業がどのような姿勢で取り組むかが鍵となります。
生成AIを活用する側がどのようなマインドセットを整えるべきかをさらに探るべく、本セミナーにご登壇された吉岡さんに話を伺いました。
ーー生成AIの活用においては、プロンプトの質によって生成される成果物の質が左右されると思いますが、問いの質を高めるために企業や個人が取り組むべきことはありますか?
吉岡:ふわっとした質問だと抽象的なことしか返ってこないことも多いので、質問の意図や背景を明確に伝えることが重要です。「〇〇について教えてください」というように最終的な回答部分だけを要求するのではなく、プラスαで質問の意図や持っている情報、仮説などを加えることで、生成AIの回答精度は向上します。
また、生成AIの出力結果が自分たちが本当に欲している情報かどうか、また信憑性の高い情報かどうかを吟味することも大事です。そのまま鵜呑みにすると、プロダクトの質は必然的に下がるので、出力された情報を批判的に評価する能力が不可欠です。
ーーセミナーで、生成AI利用を使う側の独自性や企業らしさの重要性が指摘されていました。生成AIの出力結果の良し悪しを判断するために、企業内でどのような連携が必要なのでしょうか?
吉岡:独自性や企業らしさというのは、自分たちが作りたいものや作るべきだと思っているもの、そういう意思のうえに成り立つものだと思います。それが明確にあるなかで、「でも生成AIはこう言っている」という状況から、新たな気づきが得られる感覚を持つのが良いのではないでしょうか。
生成AIは答えを知っているのではなく、一般論や膨大な情報をもとに「こうではないですか?」と教えてくれるパートナーのようなものです。言われたことを鵜呑みにするのではなく、参考程度に留めるべきだと感じています。
ーー本来の目的に立ち返りながら主体的に判断する姿勢が大切なんですね。
吉岡:はい。一方で、生成AIが学習できるデータは増え続けています。従来はテキストを都度入力する必要があったものが、現在はさまざまなデータ形式をインプットできるようになっています。さらに、企業が独自に保有しているクローズドなデータも連携して活用できるようになってきているので、生成AIは企業自身よりも詳しくなる可能性もあります。
日々蓄積されるデータからを用いた推論に独自性が生まれると考えると、全てのデータを生成AIが十分に学習し活用できるようになれば、生成AIこそが人間よりも理解している状況になるとも捉えられます。現状では人間が主導すべきと考えていますが、早い段階で人間と生成AIの主従関係や役割も変わってくるかもしれません。
ーー業務フローに生成AIを組み込むことで、反省点や業務フロー自体も変化すると思います。企業はどのように業務フローを最適化していくべきでしょうか?
吉岡:業務フロー改善には二つのアプローチがあります。既存業務フローの非効率な部分を生成AIで改善する方法と、生成AIを前提とした新しい業務フローを構築する方法です。後者の方がより大きな変化を生み出す可能性があります。
ーーそのように新しい業務フローを導入する際、トップダウンと現場主導のどちらの形式が適しているのでしょうか?
吉岡:トップダウンだと現場の実情を完全には把握できないまま新しいことを進めてしまう可能性がある一方で、現場は従来の快適なフローに固執してしまうこともあるので、どちらにもメリット・デメリットがあります。
何を優先すべきかは重要ですが、目まぐるしく状況が変化する現代においては何よりもスピードが求められることが多いです。そのうえで理想的なのは、トップダウンで新しいプロセスを提案して、それを現場で実現可能性を評価し、チューニングするといった試行錯誤を繰り返すアプローチだと考えています。生成AIの良いところは、クイックに形にして検証できることなので、恐れずにラディカルに試すことで、このサイクルを迅速に回せるようになります。
ーー新しい生成AIのモデルや技術が凄まじい勢いで登場するなかで、企業は今後どのように対応していくべきでしょうか?
吉岡:完璧な対応を求めるのではなく、変化に合わせて試行錯誤を繰り返すことが重要です。生成AI技術は常に進化しているので、特定のツールや手法に固執してしまうと、キャッチアップが難しくなります。そうではなく、常に最新情報をアップデートし、試し続けるマインドセットや企業文化/制度の構築こそが求められるのではないでしょうか。効率的なプロンプトやツールも変化するため、普遍的な正解はないと思います。
おわりに
生成AIを活用して市場分析やUX設計を効率化できる一方で、企業は生成AIで導き出された回答の有用性を主体的に判断し、自社の強みや目的と適切に結びつけることが求められます。テクノロジーは日々進化を続けるため、はじめから完璧を求めるのではなく、試行錯誤を重ねる柔軟なアプローチが不可欠です。
今後も人間と生成AIが互いの強みを活かし合い、より価値あるプロダクトの創出へとつながることを期待します。

