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持続可能の成功:ビジネスにおける“人間以外のステークホルダー”の役割

   

先週、ベルリンで開催されたサービス・デザイン会議に出席した。今年のテーマは「Catalyst for Change(変革のためのカタリスト)」で、サステナブルデザインへのアプローチについて、経験や鋭い洞察を共有する興味深いスピーチがいくつかあった。講演中、スピーカーたちのほとんどに共通していたメッセージが、「人間以外のステークホルダーを考慮する必要がある」というものだった。

人間以外のステークホルダーを考慮すべきだということを、これほど多くの業界を牽引する企業たちが訴えているのを目の当たりにして、私は嬉しく思った。急速に変化する今日の世界において、持続可能性という概念は、ビジネスの実践でますます重要になってきている。より持続可能な未来を創造するために奮闘する私たちにとって、人間以外のステークホルダーの声を認識し、会話や意思決定のプロセスに含めることは極めて重要である。

人間以外のステークホルダー

人間以外のステークホルダーとは、事業活動によって影響を受ける自然環境のさまざまな要素を指す。これには以下が含まれる。

  1. 野生動物:ゾウやクマなどの大型哺乳類から昆虫、鳥類、水生生物まで、あらゆる形態の動物。野生生物は生息地の破壊、汚染、狩猟など人間の活動によって直接的な影響を受ける可能性がある。
  2. 生態系:お互いに影響を及ぼす、生物とその物理的環境から構成された生態系全体が、人間以外のステークホルダーとされる。健全な生態系は、清浄な空気、水質浄化、受粉、養分循環など、人間のウェルビーイングに不可欠である。
  3. 植物の生命:樹木、低木、その他の草木は、人間以外のステークホルダーである。森林伐採やその他の生息地破壊行動は、植物の生態系や生態系全体のバランスに大きな影響を与える可能性がある。
  4. 天然資源:風、水、土、鉱物、化石燃料などの要素も、人間以外のステークホルダーとみなされる。大気汚染や資源採掘などの人間の活動は、これらの資源に害を与える可能性がある。
  5. 気候と気象パターン:気候と気象パターンは、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを放出する活動によって影響を受けうる、人間以外のステークホルダーである。
  6. 土地と地質学的特徴:山、川、海岸線などの地形や地質学的特徴は、採鉱、建設、土地開発などの人間活動の影響を受けることがある。
  7. 生物多様性:ある地域におけるすべての生物の多様性と変動性、生態系、もしくは地球全体の生物多様性。人間の行動によって、それらを高めることも減少させることもできる。
  8. 非生物自然体:大気、海洋、地層などの非生物的要素も、人間以外のステークホルダーのカテゴリーに入る。人間の活動はこれらの要素に影響を与え、人間の生活や社会に影響を与える可能性がある。

人間以外のステークホルダーのニーズや視点を実践や意思決定に取り入れることは、持続可能性を達成し、人間を含むすべての生命体にとって健全な地球を維持するための重要な一歩である。

人間以外のステークホルダーを考慮すべき理由

ビジネスの議論に人間以外のステークホルダーを含めることが極めて重要である主な理由は、私たちの決定がしばしばそれらに直接影響を与えるからだ。森林伐採、汚染、生息地の破壊など、人間の活動によって引き起こされる環境悪化は、生態系に害を与えるだけでなく、多くの種の生存を脅かす。人間以外のステークホルダーの視点やニーズを取り入れることで、私たちの行動が招きうる自体をよりよく理解し、人間と人間以外のステークホルダーの双方に利益をもたらす解決策に取り組むことができる。

さらに、人間以外のステークホルダーを含めることは、ビジネスにおける倫理的・道徳的配慮を促す。責任ある地球の管理者として、私たちはすべての生命を支える自然環境を保護し、保全しなければならない。

人間のニーズを大切にしながら、人間以外のステークホルダーも考慮することで、私たちはそれらの内在的価値を認め、それらのウェルビーイングの重要性を認識する。このような考え方の転換は、二酸化炭素排出量の削減、資源の保護、生物多様性の促進など、より持続可能な慣行の導入を企業に促す。

企業にとってのメリット

人間以外のステークホルダーを含めることは、倫理的な責任に加え、企業にも現実的な利益をもたらす。生態系と生物多様性のウェルビーイングは、多くの産業の長期的な存続と密接に結びついているのだ。例えば、原材料の持続可能な調達は、将来の世代のための資源の確保につながる。人間以外のステークホルダーの利益を考慮することで、企業はイノベーション、コラボレーション、そして長期的な成功のための新たな機会を見出すことができるだろう。

最近のSpringerによる研究(1)は、組織の持続可能性に対するアプローチの一つとして、ステークホルダー理論が最も使われていると示唆している。この研究は、人間以外の自然の価値を考慮した「組織と自然の関係」について、洞察を深めている。

人間以外のステークホルダーを考慮することの潜在的利益:

  1. ブランドイメージの向上:人間以外のステークホルダーの利益に配慮する企業は、倫理的で責任ある企業として認識され、ブランドイメージや評判を高めることができる。
  2. リスクの軽減:事業活動が人間以外のステークホルダーに与える影響を考慮することは、環境悪化、企業コンプライアンス、風評被害などに関連するリスクを軽減するのに役立つ。
  3. イノベーション:人間以外のステークホルダーを考慮することで、より環境に配慮した新しい製品、サービス、ビジネスモデルの開発を促し、イノベーションを促進することができる。
  4. コスト削減:人間以外のステークホルダーに配慮した持続可能な実践は、廃棄物の最小化、エネルギー効率の改善、資源利用の最適化によって、企業のコスト削減に役立つ。
  5. 競争上の優位性:人間以外のステークホルダーに配慮する企業は、環境に配慮した製品やサービスを求める消費者の需要に応えることができる。これは、同業他社に対する競争上の優位性をもたらす。

人間以外のステークホルダーの利益を考慮することで、企業はより健全な地球の実現に貢献し、長期的には収益を向上させることができるのだ。

人間以外のステークホルダーを考慮する方法

人間以外のステークホルダーを取り入れるためには、それらを特定することが第一歩である。そうすれば、ビジネス上の意思決定を行う際に、それらの関心やニーズを考慮することができるだろう。例えば、土地の利用を決定する場合、地域の野生生物や生態系への影響を視野に入れることができる。以下は、サービス・デザイン会議と私自身の調査で出合ったいくつかの例である。

イケア

イケアは「プラネット・マインドセット」を採用し、“プラネット・ジャーニー”に取り組み、ブループリントに“プラネット・レーン”を追加している。イケアが実践しているもう一つの方法は、人間以外のステークホルダーを意思決定プロセスにより自然と取り入れるために、会議に物理的に参加してもらっていることだ。イケアのサーキュラリティのためのサービス・デザイン・リーダーであるミランダ・デ・グルートは、会議の席に地球のぬいぐるみを置くことでこれを実現している。そうすることで、参加者はこの重要なステークホルダーの存在と、重要な意思決定において人間以外のステークホルダーが発言権を持っているという事実を再認識することになる。

AIの活用

まだCHAT GPTを使ったことがない人はいるだろうか?サミュエル・フーバーはカンファレンスでチャットGPTを使い、人間ではないステークホルダーから意志決定を行う立場の人へ手紙を書かせた。シュプレー川は、意志決定を行う立場の人に手紙を書くことで、文字通り“声”を得た。川がオーディエンスに直接語りかけているのは、とても印象的だった。

TreesAI

サミュエルの講演で挙げられた他の素晴らしい例として、Trees As Infrastructure(TreesAI)という組織がある。橋、道路、鉄道と並んで、「自然」を都市のインフラの重要な一部として確立し、投資、収益性、持続可能性を可能にするクラウドベースのプラットフォームである(3)。「TreesAIは、二酸化炭素対策としてだけでなく、都市の自然を投資対象とし、価値を見出すためのプラットフォームである。様々な自治体のステークホルダーと協力し、都市部の自然を、橋や道路・鉄道と同じように捉えることを働きかけている。そして、この自然のインフラを収益性のある投資対象に変えるための資金調達モデルとデジタル・インフラを構築する。」(4)

GAIAには会ったことがある?

ミラン・メイバーグは、環境保護、持続可能性、自然の権利と環境人格の世界的な導入を提唱するために設計された環境AIボットネット「Emissary of GAIA」を設立した。彼は「自然に声を与えたい」と考えている。「地球の生態系に耳を傾け、彼らに発言権を与え、権利を与える必要がある。それはAIで可能だ。抽象的に聞こえるかもしれないが、私たちはすでに最初のモデルを構築している」(5) と話していた。彼らはすでに、GAIAや海と対話できるデモをオンラインで公開している: https://demo.emissaryofgaia.com/

クライアントはどこの惑星ですか?

人間以外のステークホルダーを考慮するための興味深い方法として最後に紹介したいのが、人間以外のステークホルダーを「共同クライアント」と認識することだ。「denkwerk」のアレクサンダー・オットーは、地球を共同クライアントとして捉え、したがって、ソリューションを設計する際には、地球というクライアントにとっての付加価値も考えるようにと促している。ビジネス上の意思決定をする際、人間の顧客のために普段考えるペインポイントや付加価値だけでなく、人間以外のステークホルダーにも同じように目を向けるべきだ。

まとめ

持続可能なビジネスの実践において、人間以外のステークホルダーを認識し、取り入れることは必須と言えるだろう。その理由は2つある。第一に、私たちの行動はこれらのステークホルダーに大きな影響を与えるからだ。森林伐採、汚染、生息地の破壊は、生態系や生物種を脅かす。それらの視点を考慮することで、私たちは人間と自然に利益をもたらす、より多くの情報に基づいた決定を下すことができる。

第二に、それは倫理的かつビジネス上の必須事項であるからだ。倫理的観点からは、私たちは自然界の価値を認め、持続可能性へとシフトしなければならない。ビジネスの観点からは、ブランドイメージの向上、リスクの軽減、技術革新、コスト削減、競争力の強化といった利点がある。

環境問題を抱え、変化し続ける世界において、人間以外のステークホルダーを受け入れることは、単なる象徴的なジェスチャーではなく、すべての生命体の利益が尊重され保護される、より包括的で持続可能なバランスのとれた未来に向けた重要な一歩なのである。

ニューロマジック

ニューロマジックでは、人間以外のステークホルダーを実践的に取り入れることを目指しています。ステークホルダーのマッピング、ペルソナの作成、ペインポイントや、必要なタスクについて考えるとき、または、クライアントのために、持続可能なビジネス・ソリューションの設計にその視点を加えることで付加価値を与えるときなどに人間以外のステークホルダーを取り入れます。私たちは、リサーチ、ワークショップ、SaaSを中心としたさまざまなサステナビリティ・ソリューションを提供していますが、そういった面でも人間以外のステークホルダーの声を考慮することを心がけています。ワークショップについては、お問い合わせいただくか、こちらをご覧ください: https://landing.neuromagic.com/sx

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ベティナ・メレンデス

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)リーダー

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)リーダー。ベッティーナは豊かな国際的経歴と持続可能性への深いコミットメントを持つプロフェッショナルである。ベネズエラ出身の彼女は異なる文化圏を渡り歩いた経験を持ち、持続可能性を業務に取り入れようとする企業に対し、有益な独自の視点を提供している。


参考文献:

*(1) Springer – Particularizing Non-human Nature in Stakeholder Theory: The Recognition Approach https://link.springer.com/article/10.1007/s10551-022-05174-2

*(2) Expanding the Stakeholder Approach: The Impact of Non-human Stakeholders in Supply Chain Sustainability https://research.cbs.dk/en/studentProjects/expanding-the-stakeholder-approach-the-impact-of-non-human-stakeh

*(3) https://drive.google.com/file/d/127XlBUlQ-9_llwJawalifxWoqbBxG8ha/view

*(4) https://www.architectmagazine.com/technology/treesai-shows-communities-how-to-maintain-and-grow-their-urban-forests_o

*(5) https://innovationorigins.com/en/with-this-award-entrepreneurs-can-take-their-sustainable-ideas-to-the-next-level/