開示で終わらせないSSBJ対応。ダブルマテリアリティを経営にどう接続する?

「何を書けばよいのか」「どこまで整理すれば十分なのか」

SSBJ(サステナビリティ開示基準)対応の現場では、こうした問いが繰り返されているのではないでしょうか。いずれも自然な疑問です。ただ、この問いに向き合っているうちに、議論の前提が少しずつ「開示項目をどう埋めるか」に寄っていくことがあります。

しかし、SSBJ対応は単なる開示作業にとどまりません。企業が自社のマテリアリティをどのように捉え、事業や意思決定とどう結びつけているのかを見直すプロセスでもあります。

問われているのは、「何を書くか」だけではありません。
自社は何を重要なテーマとして捉え、それが事業にどのように関係していると考えているのか。そうした認識の構造そのものが、より丁寧に見られるようになっているのかもしれません。

その核心にある考え方の一つが、ダブルマテリアリティです。

ダブルマテリアリティとは何か、なぜ難しいのか

ダブルマテリアリティとは、一般的に「企業にとっての財務的影響」と「社会・環境へのインパクト」の両面から重要性を捉える考え方です。概念としては広く知られるようになってきましたが、実務で扱おうとすると、難しさが増します。

理由の一つは、この二つが単に並べて評価すればよいものではないからです。社会・環境へのインパクトは、規制や市場、顧客の期待、サプライチェーンの変化などを通じて、時間差を伴いながら財務リスクや機会へとつながっていく場合があります。

たとえば、環境負荷の高い事業は、将来的な規制対応や市場評価の変化によって、コスト増や競争力低下につながる可能性があります。一方で、人的資本への投資やサプライチェーンへの配慮は、中長期的に生産性向上、ブランド価値、採用競争力といった形で企業価値に影響することもあります。

つまり重要なのは、インパクトと財務影響を別々に整理することではなく、その間にある「変換の関係」をどう捉えるかです。実務では、この接続が分断されているケースも少なくありません。インパクト側はCSRやサステナビリティ部門で整理され、財務側はリスク管理や経営企画で整理されている。それぞれ単体では一定の整理がされていても、両者の間に十分な接続がない。

この状態では、マテリアリティがストーリーとしてつながりにくくなります。優先順位の根拠が見えづらくなり、意思決定にも使いにくくなる。ここで起きているのは、単なる「整理不足」ではなく、「接続不足」なのかもしれません。

SSBJが問うのは「接続の質」

SSBJ対応では、単に情報を並べるだけでは十分とはいえません。リスクと機会としての整理、事業モデルとの関係、財務影響とのつながりなど、複数の観点を踏まえた説明が求められます。言い換えると、インパクトと財務を切り分けたままでは、説明しきれない構造になってきているとも考えられます。

「重要であること」は示せてはいる。しかし、「なぜそれが事業に影響するのか」「どのタイミングで影響が出てくるのか」「誰の意思決定に関係するのか」までは整理されていない。こうした状態は、少なくない企業で見られるのではないでしょうか。SSBJ対応は、この“抜けていた接続部分”を見直すきっかけにもなり得ます。

ここを理解しておくと、対応の方向性が少し変わります。新しい開示項目を追加する作業としてではなく、既存のマテリアリティを別の軸から見直す作業として捉えることができるからです。

具体的にどう整理するか——「IT人材不足」を例に

では、実務ではどのように整理すればよいのでしょうか。ここでは、「IT人材不足」を例に考えてみます。

多くの企業のマテリアリティには、「人材育成」「エンゲージメント」「ダイバーシティ」といったテーマが並んでいます。いずれも重要なテーマです。ただし、そのままではSSBJ対応や経営判断に接続しづらい場合があります。

まず確認したいのは、事業モデルとの関係です。どの事業が、どの程度IT人材に依存しているのか。製品開発なのか、顧客対応システムなのか、内部管理プロセスなのか。ここを特定しないままでは、その後の議論が抽象的なまま進んでしまいます。

次に、その不足がどのような形で事業に影響するかを見ます。たとえば、開発の遅延、品質低下、外注コストの増加などが考えられます。さらに、それが財務にどう現れるかを整理します。売上機会の逸失、原価率の上昇、利益率の低下などです。ここまで整理されると、経営がリスクとして捉えやすくなります。

一方で、機会側も見ていく必要があります。IT人材への投資によって、生産性向上、高付加価値サービスへの転換、採用ブランドの強化などにつながる可能性もあります。

ここで重要なのは、「人材が重要」という一般論にとどめないことです。どの事業の、どの部分に、どのように効いているのか。そこまで分解することで、意思決定に使いやすい整理に近づきます。この分解がないと、KPI設計の段階で詰まりやすくなります。採用数、離職率、育成時間、生産性など、指標の候補は挙げられても、それが経営判断にどう使われるのかを説明しづらくなるためです。

逆に、依存関係から財務影響まで整理されていれば、どのKPIが意思決定に効くのかが見えやすくなります。KPI設計は、指標を無理に選ぶ作業ではなく、接続を確認する作業に近づいていきます。

「正しさ」より「動かせる状態」を

とはいえ、すべてを一度に整えるのは現実的ではありません。

初年度の対応では、主要なリスクと機会に絞り、既存のデータで説明可能な範囲から始めることも有効です。最初から完全な整理を目指すよりも、まずは社内で動かせる状態をつくることが大切ではないでしょうか。

SSBJ対応は、開示項目を埋めるだけの作業ではありません。マテリアリティを、意思決定や事業運営に接続していくプロセスでもあります。

新しいものを足すのではなく、既存の整理をどうつなぎ直すか。この視点を持つことで、SSBJ対応は単なる負担ではなく、自社の構造を見直す機会として機能し始めるかもしれません。

ニューロマジックでは、マテリアリティの再整理からSSBJ対応まで、開示と実務が分断しない形での設計を支援しています。

既存の整理を活かしながらダブルマテリアリティへ接続したい場合や、SSBJ対応を単なる開示対応で終わらせたくない場合は、まずはお気軽にご相談ください。

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