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デザインスプリントの先駆者 AJ&Smart のCEO、Jonathanへインタビュー <前編>

   

Jonathan Courtneyは、ベルリンに拠点を置くグローバル・プロダクトデザインエージェンシー「AJ&Smart」のCEO。世界中のサービスデザイナーやUXUIデザイナーが注目する、業界を先駆ける企業です。 今年4月、Jonathanは初となるブック『The Workshopper Playbook*1』をリリース。予約開始から数時間の間に1,500部の全ての予約が埋まり、ウェイティングリストには35,000件もの登録があるほどの人気ぶり(2020年4月時点)。AJ&Smartがこれほどにも莫大な支持を得ているのは、一体なぜなのでしょうか。ご存知の方はお分かりかと思いますが、JonathanとAJ&Smartはなんと言ってもそのキャラクターが独特!遊びの要素を取り入れたような、彼らから伝わってくる勢いとエネルギーは唯一無二です。ただ、これだけがAJ&Smartの人気の秘訣というわけではありません。何よりも、デザインスプリントとワークショップの知見を持ち備えていて、これを人々に教えるというスキルを身につけていることこそが重要なポイントなのでしょう。

Google VenturesのJake Knappの著書『Sprint*2』(2016)で公となった手法「デザインスプリント」は、短時間でアイディエーション(アイデア創出)とプロトタイプを行うことに焦点を当てた5日間のワークショッププロセスです。Jonathan Courtneyはこれをデジタルプロダクトデザインの一環として採用し、のちにコンサルティングや教育サービスへと展開していきました。

ニューロマジックは『the Workshopper Playbook』予約開始となる数週間前にJonathanをインタビュー。どのようにして彼がデザインスプリントへ関心を持ち始めたのか、どのようにしてクライアントへサービスを提供しているのか、そしてデザインスプリントの未来をどう捉えているかについて伺いました。今回のインタビューの内容は、2回のブログに分けてお伝えします。前編ではJonathanがどのようにしてデザインスプリントを始めたのか、どのようにしてクライアントにデザインスプリントとワークショップの価値を伝えているのか、そしてプロダクトデザインとデザインスプリントを提供するエージェンシーのCEOとして、7年間で得た教訓について伺った内容をお伝えします。

後編では、AJ&Smartがデザインスプリントだけに限らず、ワークショップ全般へと事業を移行した理由について伺います。なぜデザインスプリントがあらゆることに対する解決法というわけではないのか、そしてなぜ「ワークショップ」という基本へと立ち返ったのかについて、ご覧いただけますよ。

目次

プロダクトデザインから、デザインスプリントの世界へ

Neuromagic:デザインスプリントを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

ジェイク・ナップ, ジョン・ゼラツキー, ブレイデン・コウィッツ, 櫻井 祐子のSPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法

Jonathan:これまでプロダクトに関わったことのある方なら知っている感覚だと思いますが、6ヶ月も経つと何が何だったか忘れてしまうんです。実際、AJ&Smartでずいぶんと大きな予算の案件を受けたことがありましたが、プロジェクトを初めて1年経ったときに新しいメンバーがチームに加わり、ゼロから始めなければならなかったという経験がありました。都度やる気を奮い立たせようとするわけですが、その感覚が好きじゃなかった。無意味に感じるんですよね。

2016年に書籍『Sprint』が出版されたころ、デザインプロジェクトを始める際に全員で同じ認識をもつためには、ワークショップこそが必要なものだと気づき始めていました。ワークショップをしたかったわけではなくて、単にワークショップのないプロジェクトはひどい結果に終わることがわかったんですよ。だからこそ『Sprint』が出版されたとき、とても嬉しかったんです。こんな大きな、全員に同じ認識を持たせるために使える、ステップごとに進んでいくワークショップがあると知ってすごく嬉しかったんです。

プロダクトの世界というパズルでかけているパーツは、

「人々がどうやってプロジェクトを始めるべきかを知らない」

ということだと思った。

– AJ&Smart CEO Jonathan Courtney

プロダクトの世界を嫌うのではなくて、心からもう一度仕事を楽しむために、今までのやり方を一掃しようと思いました。プロダクトの世界というパズルで欠けているパーツは、「人々がどうやってプロジェクトを始めるべきかを知らない」ということだと思いましたね

Neuromagic:通常のUXのプロセスにワークショップを取り入れ始めたとき、クライアントにデザインスプリントを提案することに不安はありましたか?

Jonathan:きちんと上手くいくかまだわからなかったので、正直すごく不安でしたよ。でも、例えどんなに緊張していたとしても、どんなにひどいワークショップだったとしても、それまでに取っていたプロセスを踏むより断然良い結果が出たんです。つまり、どちらかというと今までのように「プロセスを踏む」のではなくて、「全員が一斉に話す場を作る」という感じですね。デザインスプリントをやり始めてすぐ、ファシリテーターやきちんと決まったプロセスがある方が断然良いと強く思うようになりました。

デザインスプリントやワークショップの価値を「伝える」ということ

Neuromagic:導入してからまだ初期段階で、どのようにしてデザインスプリントという新しいアイデアの価値を、クライアントに理解してもらうことができたのでしょうか?

Jonathan:私たちのクライアントは大企業ですので、(当時は)かなり緊張していました。クライアント以上に、私が心配していたんですよね。クライアントはやりたがらないだろうなと思っていましたし、実際にクライアントはクリエイティビティとか、ブレインストーミングとか、こういう言葉を聞きたがらなかったんですよね。パートナーと私が会社を始めるとき、とても上手くいった例の1つは、UXのボキャブラリを全てビジネスのボキャブラリに変換したということ。例をあげるなら、予約サイトか何かのランディングページを変更したい場合。より良いユーザー・エクスペリエンスのために何か私が変えたいことがあったとします。でも1年間ずっと交渉し続けても、いつも断られてしまうんです。それで、気づいたんですよ。「コンバージョン率をあげたいんです」と言ったらどうなるんだろう?って。それからは(この方法を実践したら)思い通りにいきました。

Neuromagic:実際に、デザインスプリントやワークショップの価値をクライアントに説得するときに、どんなことを伝えているのでしょうか?

Jonathan:いろいろ言えることはありますが、ここでは1つだけピッチの内容を説明してみます。同じプロダクトに取り組んでいる2つのチームがあるとしましょう。チームAは通常のプロセスを踏んでいて、チームBはプロジェクトを始めるのにデザインスプリントを使っている。公平性を保つために、最後にどちらも同じクオリティのプロダクトを作ると言っておきます。実際はこうはならないんですけど、一応フェアにしておくためにね。

さて、デザインスプリントを使用していないチームAは、全員が何のことを話していて、ただ同じ認識をもつためだけに、6ヶ月かかります。プロジェクトを本当の意味で始めることができるまでの間に、お互い誤解し合う6ヶ月間が続くのです。この6ヶ月間、メンバーはお互いを嫌って、多くのフラストレーションを抱えます。それで実際にプロダクトを作り出すという地点にたどり着くときには、もうそのプロジェクトをやることでさえ楽しめなくなってしまうんです。

そうしてユーザーにプロダクトをお披露目することさえなく1年が経ち、やっとユーザーに見せたときには「もしかしたら、これはユーザーが欲しいものではなかったのかも」と気づきます。でも、いずれにせよチームは多くの時間とエネルギーを注いできたわけですから、そのプロダクトはローンチされ、結局いやになるわけです。これがチームA。チームBは、6ヶ月の混沌とした状況を避けるために、とてもハードな2週間を過ごします。この(デザインスプリントを含んだ)2週間で、チームBは機会を得ることができる。ハードですが、基本的にはこの2週間の後には何をすべきかが大抵わかるようになります

やっと発見した、デザインスプリントの効果的な準備

Neuromagic:デザインスプリントやワークショップでは素早くエクササイズを行っていきますが、その前に準備がありますよね?ニューロマジックでももちろんしているのですが。

Jonathan:2年前は、何も準備をしていなかったんです。今はかなり準備しますけどね。本当にたくさん。1週間まるまる準備期間になることもありますよ。プロジェクトに関わっていくステークホルダーそれぞれに電話もして。このワークショップに参加する理由、そしてプロジェクト自体を理解してもらうためです

AJ&Smartで実際に何をしているかというと、あらゆるエクササイズのドラフトを作るんです。ちょっとおかしいくらいですけど。どのようにすれば〜できるか(How Might We)マップとターゲット〜できるかな(Can We Question)と長期目標といったアクティビティを、クライアントとのディスカッションをもとに全て自分たちで事前にやっておくんです。ですから、クライアントが来たたときにはすでに内容の埋まった全てのキャンバスが壁に貼られている状態になります。それで、ゼロから初めていく代わりにクライアントには足りないものを補足してもらうようにお願いします。ですから、私たちは実際のデザインスプリントが始まる1週間前に私たち自身でデザインスプリントを必ずやるんですよ。2年前の私たちなら完全にこれに反対していたでしょうけどね。「いや、デザインスプリントの意味は早くできることにこそあって…」なんて言っていましたから。でも自分は間違っていたと思います。事前に準備をする方が良いということがわかりましたね。

Neuromagic:準備なしでデザインスプリントを始めていたとき、「これではだめだ」と感じた具体的な出来事はありましたか?

Jonathan:毎回月曜の朝は信じられないくらいストレスが溜まるし、日曜の夜はデザインスプリントやA/Bテストの結果がどうなるか心配で眠れないし。まるまる1週間の準備期間を設けた方がどれだけ落ち着けることだか、って思ってね。全てのクライアントではありませんが、最近は心配な時には2週間の準備期間を設けることでさえありますよ。今はたくさん準備しています。

本当に優れたファシリテーターとは

Neuromagic:海外のクライアントの場合は、そのクライアントの地域に合わせてやり方を変えていますか?

Jonathan:私たちにとってはどこ出身のクライアントなのかではなくて、どんなクライアントなのかの問題ですね。例えば、1月にマネジメント・コンサルティングファームと一緒に働いていて、その数週間前には製薬会社と働いていました。どちらのクライアントにも同じワークショップを提供したのですが、完全に違う方法で実施したんです。これは単に、このクライアントたちは違うニーズと、企業文化を持っているから。海外のクライアントと働いているから、クライアントが世界中からフライトで来るからと言って、「アメリカ人の集まりだ」とかなんだとか、単純に言えるわけではありません。ですから私たちは、何よりもクライアント独自の企業文化を重視しています

ワークショッパー(Workshopper)であるということは、

柔軟な対応性をもつこと。

– AJ&Smart CEO Jonathan Courtney

お分かりかもしれないですが、ワークショッパー(Workshopper)であるということの重要なポイントは、柔軟な対応性をもっているということです。例えば、製薬会社では元々デザインスプリントで使われている「意思決定者(Decider)」という言葉を使いましたが、一方マネジメントコンサルティングファームは明確な階級制度がないため、この用語は好まれず「意思決定者」ではなく「プロジェクト責任者」と呼ぶことにしました。

Neuromagic:ファシリテーターとして、デザインスプリントではどの程度ご自身の意見を参加者に伝えていますか? Jonathanはデザイナーでもあるので、知見も多いですよね。そんな中、デザインスプリントではどの程度自分の意見を提示していますか?

本当に優れたファシリテーターは、

自分が主役でないということをわきまえている。


– AJ&Smart CEO Jonathan Courtney

Jonathan:本当に優れたファシリテーターというのは、自分は主役ではなくガイドである、ということを認識していると思います。参加者をステップごとに導いていくことが役割だとわかっているんです。参加者があまりにもずれたことをしていない限り、彼らを操るようなことは避けます。通常私個人のアイデアとしてクライアントに提示することはありませんが、例えばマップ上に示されたターゲットが漠然としすぎていると感じたら自分の意見は伝えますね。ですから、私は「このコンセプトが1番です。こっちを選ぶなんてどうかしてますよ!」なんて言ったりすることはなく、ベストプラクティスを示せる人としてその場にいると心得ています。

私も自分のアイデアは考え出しますよ。アイデアを考えるのが好きだから。AJ&Smartのメンバーもアイデアを出しますが、クライアントに誰のアイデアかを伝えたりはしません。私たちのアイデアに誘導するようなことはしませんし、もしクライアントがあまり望ましくないアイデアを選んだとしても悪く思うことはありません。デザインスプリント自体(検証のフェーズ)がそれが正しいか、間違っているかを示してくれますから。

Neuromagic:ファシリテーターたちに伝えたい、コツはありますか?

Jonathan:自信と外向性は絶対必須ではありません。AJ&Smartの最高の腕を持つファシリテーターも、内向的な性格からはじめたメンバーはいますし、今でも内向的なファシリテーターだっています。目を見るのが好きでなくて、話すのも好きじゃないし、雑談が苦手なタイプ。でも、かなりの大人数が参加するワークショップのときでさえも、彼らは参加者を魅了してしまいますよ。きちんとステップを知っていますし、ファシリテーションのトレーニングを受けてきていますから。


今回のブログでは、AJ&Smart CEO、Jonathan Courtneyへのインタビュー前編をお届けしました。

まとめ

  • デザインスプリントやワークショップの価値をクライアントに説得させるときには、柔軟性をもつこと。クライアントが慣れている用語を使い、クライアントのニーズに合わせてエクササイズを調整する。
  • 準備は重要!AJ&Smartはクライアントとのデザインスプリントの前に、全ての工程を自ら実施している。
  • 異なる国の文化に合わせて調整するのでなく、それぞれの企業文化に合わせることこそが重要。同じ国の企業でも、全く異なるやり方が求められることもある。
  • ファシリテーターはガイドであり、決して主役ではない。トピックから離れないようにサポートはするが、干渉はしない。
  • ファシリテーターになるために、外向的である必要はない!

AJ&Smartはなぜデザインスプリントからワークショップ全般へと方向転換したのか、そしてJonathanが考えるビジネスにおけるワークショップの未来については後編 をご覧ください。

*1『the Workshopper Playbook』はAJ&Smartが独自で刊行。ワークショップのコツをまとめている。「Workshopper」はAJ&Smartが独自に生み出した言葉であり、端的に言えば「ワークショップをする人」。

*日本語版は『SPRINT 最速仕事術――あらゆる仕事がうまくいく最も合理的な方法』(2017)この記事は、石田智絵が英文を日本語に翻訳しています。

この記事は、石田智絵が英文を日本語に翻訳しています。

岩田エレナ

デジタルマーケター
アメリカ出身。メディアコミュニケーションの学士号を取得後、2019年ニューロマジックに新卒入社。現在は自社のSNS企画運営に加えて、サービスデザインに関する記事の執筆、インタビュー、撮影までをマルチにこなす。

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